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本記事について

前回の前編に続き,国際グラントHFSP(Human Frontier Science Program)を通じて基礎研究の魅力を再発見していきたいと思います.話題は,HFSP日本人審査員を務める金城先生と,HFSP応募に夢を抱く三輪先生のお二人に提供いただきました.申請や審査の実際も詳しく解説いただいていますので,「HFSPってなんかイイかも」と感じた皆様の応募にもお役に立てばと願っています(本誌の発行時点では新年度の募集にばっちり間に合います!).「応募するまではちょっと……」という方にも,世界にはおもしろい研究費もあるもんだ,と頭を休めてお読みいただけましたら幸いです. (編集部)

本コンテンツは,実験医学同名コーナーからの転載となります(2015年3月号).

第2回
グラント申請編[後編]

執筆(所属は掲載時)

  • 金城政孝(北海道大学大学院先端生命科学研究院)
  • 三輪佳宏(筑波大学医学医療系)

“Intercontinental”な研究ってどう計画すればいいの?

三輪(以降,M)さて,前編ではHFSPのポリシーから始まり,審査の裏側に話が進んできました.特に,審査員があっさり公開されているところには衝撃を受けましたね.

金城(以降,K)審査の過程を秘密にするよりは,本当に練りに練ったInnovativeな研究申請を出して欲しい,というのがHFSPグラント担当部長のGeoffry Richards (Geoff氏) のポリシーであり,審査員みんなの願いなんです.2014年の秋にHFSPが生物物理学会年会,筑波大学と産業技術総合研究所でランチョンセミナーや講演会を開催した理由もそこにあります.

M博士号を取ってすぐの人の留学を支援してくれる<フェローシップ>や,独立を支援してくれる<CDA>は大体イメージできますが,なんといってもHFSPの醍醐味であり,詳しくお聞きしたいのが<グラント>の申請についてです.


日本では出口志向でないとお金を取りにくいと言われる.特に大きなプロジェクト型の場合には明確にそうとは書いていなくても“出口”を明確にするよう求められることが多い.面接の時に「その研究はなんに役に立つのですか?」と,よく聞かれるから注意せよ(笑)とアドバイスをされた経験のある方も多いのではないだろうか?

HFSPの場合 “出口” は全然問題にされない.いつも問題にされることは明確なHypothesisである.「この申請書(申請者)の明らかにしたいHypothesisは何か?」「それがいかに明確に,どこに記載されているか?」が重要な観点となる.前編で紹介したようにHFSPの対象とするのは “生体のもつ複雑な機能解明のための基礎研究分野” なので,申請者が書くべきは生体のもつ複雑な機能がどこから由来しているかと言うことになろう.また,“生体のもつ複雑な機能” を “生体のもつある特徴” と言い換えてもいいだろう.

どの機能・特徴に着目するかは申請者のアイデアでありバックグラウンドに由来する.そのうえで,それまで解明されなかった(not founded)その機能の原理を解明するために,新規の手法の展開が求められる.物理的な手段や化学的な新規の化合物が有効になるかもしれない.また,その特徴を定量化したり,さらに必要なら再構築して表現する方法として数学的な手法が必要になったり,in silicoでの表現方法が有効になることがあるのかもしれない.これがHFSPの考えているInterdisciplinary(学際性)の必要性である.主申請者(Main Investigator)が生物学分野以外の場合には,物理学や化学の分野から生体のもつ機能の解明にチャレンジする形になるが,いずれにしても主申請者が主体的にイニシアチブをもっていることが申請書では一番大事である.つまりinvestigator drivenでなければならないのである.


Mむむむ……何度きいても魅力的なポリシーですね.日本国内で本気で冒険しなさい,と言われたのはJSTの<さきがけ>のときぐらいかなぁ.

K科学技術立国をめざすには「まず新規な基礎的発見に力をいれるべきだ」という当たり前のことを,国にも一般の人にも,もっともっと理解して欲しいですね.

M申請に向けて次に知りたいのは「どういうメンバー構成にすればいいのか」というところです.Intercontinentalが推奨されているようですが,そのために別の大陸,別の分野の研究者が必要となると,国内で共同研究者を探すのとはさすがにちょっと勝手が違いすぎるというか……

K日頃から研究者としての“心のアンテナ”を広くもつ,ということがやはり大切でしょう.それと最近は「日本の若者が海外に行きたがらない」という話もよく耳にしますが,世界のどこかにいる,自分のパートナーになるかもしれない人達を知るためにも,またその人達に自分を知ってもらうためにも,国際的な研究交流の場を積極的に利用したいですね.

MいつかHFSPに申請したい,と思っているだけでも,雑用に追われる日々の束縛から離れて,サイエンスをめざしはじめた頃の初心に返れる気がします.まったく別の分野の,しかも他の大陸に住んでいる研究者の業績に興味をもち,思いを馳せる…….

Kグループを組むからには,当然メンバーといろいろな相談をしたり,やり取りをしながら準備を進めるにしても,代表になった人がかなり頑張らないと採択は難しそうですね.

MHFSPの<グラント>では同じ申請グループに属している複数の申請者は研究費の配分上平等の扱いとみなされますが,どうせ申請をするなら,主申請者を狙いたいですね.なぜなら,主申請者がプロジェクトを引っ張っているとみなされるからです.

K採択リストを見ていると,3大陸でチームになっているものが多い気がしますが,欧州に住んでいる人に比べると,日本は幸いにして(?)島国なので,米国と欧州からパートナーを探せばもう3大陸間のIntercontinental! 条件は確実にクリアできますね(笑).

M人数は多いほうがいいんですか?

K2人,3人,4人のチームと増えるにしたがって,支給金額が増えるしくみになっています.ただし,審査のときには“Small is beautiful”を大事にするので,よく作戦を練ることが大切.無意味に大きくするのは考えものですね.特に,コラボレーションのためのコラボレーションはよくない.意外にバレるものですよ(笑).

Preliminary dataは不要って本当?

主申請者は,このようなInterdisciplinary(学際性)を有するプロジェクトを3年間にわたって進めて行けるかの“資質”も審査される対象になっている.その指標として審査員は何を見るかというとPublication listである.HFSPではこれまでにないFrontierをめざすのだから,申請前の成果は無いはずである.そもそも「Preliminary dataは不要である」との記載が公募要領にはある.それなのに業績としてのPublicationを見るというのは,なぜだろう? それは「ある分野で成果をあげた人は,別分野でも活躍する可能性が高い」と判断されるからである.


M採択されるには業績は重要だけど,意味合いや見方がちょっと違うんですね.

KHFSPの審査員は業績の内容もかなり綿密に確認しますが,それは今回の申請が,申請者のそれまでの業績の単なる延長線上ではなく,そこからなるべく大きくジャンプしているかどうかを判断するためなんですよ.

Mえ〜! 感覚的には逆じゃないですか?

これまでやってきたことの延長線上だからちゃんとやるだろう,と信じてもらえるのがふだんの感覚だと思うんですが,むしろジャンプしているかどうかが大事ですか.審査の大変さも並ではないですね.

Kそうそう,そこがHFSPの審査が他と違うところで,大変でもあり,おもしろくもあり(笑).これは審査の仕方全体を通して言えることですけどね.

Mお! いよいよ審査の内幕の話ですね?

<グラント>の応募倍率はどのくらい?

HFSP<グラント>の気になる採択率はどのくらいだろう? 審査の仕方をおいながら紹介する.

申請は,1月にオンライン申請のサイトが開設され,3月末ごろ趣意書(LI:Letter of Intend)とよばれる一次審査用応募書類の締切がある※1.その時には世界中から約1,000近い応募があるが,事務局で形式的な問題のあるものなど申請不適格として約10%が除外され,残りの800〜900がまず,グラント審査委員(Research Grant Review Committee)とよばれる約24名のメンバーにより審査される※2.このときは1つの応募に対して2人の審査委員が学際的か,革新的か,共同研究が必要か,などの細目の評価と,総合的にAからDまでを判定して提出する.次に,このLIからFull Applicationの提出をInviteするかどうかの判断をするために,選考委員(Selection Committee)が任命される※2.そのメンバーは現・前グラント審査委員などから構成された約12名である.したがって,このSelection CommitteeはHFSPの本質を知っていると言ってもいいだろう.

さて,これからがおもしろいところだ.1つの申請書に2人のグラント審査委員の評価がついているので,例えば,AAやAB,CC,DD,ADなどの評価が一覧となってリストになっている.その時に残念ながらCCやDDは事前に省かれるが,AAはもちろん,ADなどの約300程度のLIは再度,選考委員によって事前に評価され,AからCの評価がさらに付されて,それをもって6月にストラスブールで開催される選考委員会で議論されることになる.ここまでが一次審査と言える.

ここで選考委員が注意することは 「グラント審査委員が1人でもAを付したLIは何かおもしろいことがあるかもしれない」 また 「AAが必ずしもHFSPにフィットするのではない」 と考える.つまり,グラント審査委員とは言え,はじめての人もいるわけなので,彼らの判断が単に“優れた”申請書に点数を与える可能性があると考えているからだ.ADの評価も“人によっては無謀と思うほど”挑戦的なFrontierかもしれないし,AAの評価でもかなり慎重にFrontierかどうかを判断する.スーパースターを集めただけの申請書ではないのか……などなど.これは言葉でいうのは難しいのだが,選考委員が実際に顔を合わせて話をするなかの雰囲気で醸し出され,理解し,熟成すると言えるかもしれない.


Mおお〜!LIは,言ってみればFullに進めるかどうかの前審査みたいなものなのに,その審査ですら2段式で,選考委員が議論までしてくれるんですか.AAだからといってすぐ決定ではないし,ADみたいに最低のDが付いても議論してもらえる,ということですよね?

Kいやあ,むしろ審査委員の意見が真逆に割れているようなものを選考委員会で議論するところが,本当におもしろいし委員としてもやりがいもある.実際,採択になるものも出てきます.

M個人個人の審査員がただ点数をつけたものを集計するのではなく,“議論”のもつ意味を本当に大切にして審査してくれている感じがします.Fullの申請書を書かせてもらえるかどうか,というところにたどりつくだけでも,すでにけっこう大変ですね.

K若手(でなくても)の申請者はまず,LIを突破せよということです.必要なことは学際的か,革新的か,共同研究が必要かなどを明確に箇条書きに近いくらいに記載するのがいいです.しかも一次審査のLIは実質A4で2枚程度の英文で,自分のアイデアで勝負できるわけです.一方でGeoff氏の講演では,

Do not write at three※3 points in your letter of intent “This interdisciplinary, international collaboration brings an innovative approach to the problem of ……”. That should be obvious from your text!

と,言っていましたけどね(笑).

それと,引用不足・歴史認識不足はマイナスですね.ジャンプしようとしているからこそ,できる限りの足固めはできていなくてはいけません.逆に,権威や肩書きの誇張はマイナス.

Mスーパースターが並んでるから通って当然,みたいな書き方だけど,ただのてんこ盛りでちっとも連携しそうもない……のは科研費の審査でもみかけますね(笑). LIをクリアできたら,いよいよ本申請(Full Application)ですね.ここまで本気で審査してくれているからこそ,海外では,HFSP<グラント>のFull Applicationに進んだこと自体が業績として評価の対象になる,というのもわかる気がします.

ハードな申請……だからこそ,おもしろい!

LIを突破してFull Applicationの提出を求められる(Invite)と,それからが本格的な申請作業になる.Abstract(2,400 characters),Overview(10,000 characters),Proposed Research(30,000 characters)などを9月頃までに書かないといけないが,このFull Applicationに声がかかるのは約80〜90程度の “選ばれし者” になるわけで,ここまで来たからには力を込めなくてはならない.Full の申請書はMail Reviewer(MR)とよばれる審査員※4 に託される.その数はおおよそ5人程度だが,多い時は10名近くになる場合もある.さて,グラント審査委員(Research Grant Review Committee)がなすべきことは,自分の判断と各MRから戻ってきた評価を比較して,グラント審査委員会で報告することである (写真1).各申請書には2人のグラント審査委員がつき,それぞれ意見を記す.この意見 (コメント) は会議の約1カ月前にHFSPの本部に送り,本部ではその2人の意見が同じならそれを委員会へ,もし2人の意見が反対であれば,さらに第3者の委員の評価を得るように手配する.

図1

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委員会で重要視されるのは簡単に言うと,やはり 「Frontierであるかどうか?」 である.つまり,MRがどんなにいい研究内容であると評価し,そのグループがどんなにProductiveな (つまり論文の多い) 仕事を行ってきたかと評価しても,申請内容が既存の研究の延長線ではないのかが全体で議論される.議長の判断で議論を終了すると,次は2人 (または3人) の審査委員の意見を聞いていた他の審査員も含めて,点数と,グラントを与えるか与えないかの意見 (Y or N) を投票する.3日間の議論の最後は点数化された一覧表が配られ,どこまでを今年のグラント受賞にするかが判断される.

このような審査を経て,最終的に約30〜35課題がHFSPのグラントを得ることになり,その採択率は約4%の狭き門だ.発表は翌年の3月で,1年を費やしての審査ということになる.このような審査過程をもつHFSPのグラントにチャレンジすることは,自分の研究やその考え方がグローバルな世界からどのようにみなされるのかの評価となろう.


Mこ,これは本当に審査員も真剣勝負ですね! 自分と何の関係もない審査を通すか落とすかで,プレゼン勝負をやって全審査員を説得する,ということですね.

Kそうです.議論のときにうまく説明できなくて,自分が推している申請が落ちたりすると,まるで自分のことのように悔しかったりもします.かなりシステマティックなようですけど,実際にはグラント担当部長のGeoffさんの舵取りがうまいんですよね.

MFull Applicationとしても応募の1/3ぐらいで,最終的にはわずか4%とは,そうとうな競争率.「出してみたけど,残念! 落ちちゃった」という人がかなりいますよね.

K大事なのは,まさにそこ.日本の科研費だと,審査員もどんどん入れ替わってしまうし,前回の申請と今回とで,どこをどう工夫したか,なんて必ずしも考慮されませんよね.それで,ダメなら違うネタで,という人すらいるでしょう.しかしHFSPでは,どうリベンジしてくるかをとても楽しみにしているし,大切に審査します.メンバーを組換えて,さらなる高度な連携をめざした出し直しが来たりすると,「おっ! ? 来たな!」という感じです.しかも,選考委員会やグラント審査委員会でもそのことは明確に指摘されます.つまり,何年度に応募があって,これが再応募になるなど.

Mそうか〜,審査を通じて,自分のサイエンスの質が本当に向上していくんだ…….出してダメなら残念でした,じゃないんですね.LIまで採用されたとか,Full Applicationになると落ちた理由なんか,参考になりますね.

Kね? おもしろそうでしょう? だからこそ,日本にいる優れた研究者のみなさんに,ぜひHFSPをめざしてグラントを申請してみて欲しいんです.

Mたとえすぐ採択にはならなかったとしても,準備の段階で国際的な仲間は増えるし,視野が広がったり,新しい可能性に気がついたりして,得るものがたくさんありそうですね.

Kいつだったか,審査終了後に2,3名の審査員とビールを飲みながら「そちらの国でも同じような審査方法をしているのか?」と聞いたことがあるんですが,答えはNOでした(笑).「国に戻ればPoliticsなどあるよ……」と.「でもHFSPの審査は全然違う,純粋に科学ができる」と,答えていたことが印象に残っています.

Mそういえば,Geoffさんがつくばに来てくださったときに(写真2),1つ印象に残っていることがあるんです.Geoffさんはイギリス人なのに紅茶よりコーヒー党で,ガッツリとしたエスプレッソが好きなんだけど,「日本のホテルの朝食バイキングは,料理に関しては,和洋中すべて揃っていて驚くほど何でもあるのに,コーヒーになると,とたんにシャバシャバのアメリカンしかないのが不思議」だと言ってました(笑).まあ,コーヒーはともかくとしても,サイエンスに関しては「香りがよくて苦みのきいた,ビシッと一本筋の通ったいい研究者が日本にはたくさんいるね」と思ってもらいたいものだなぁと,しみじみ感じました.

図2

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Kわれわれにできること,やるべきこと,たくさんありますね.

M今回HFSPについて知る機会があり,もっともっと研究するぞー! っと元気が出ました.これを読んで,基礎研究をめざす若い人達が増えてくれたり,元気になってくれることが一番の願いです.

K旅行はあんまり好きではない,と言いながら遠い日本まで来てくださったGeoffさん,講演会に足を運んでくださったみなさん,HFSPの事務局のみなさんに心から感謝しています.ありがとうございました.

プロフィール(掲載時)

金城政孝
北海道大学(大学院先端生命科学研究院)教授.宇都宮大学大学院農芸化学専攻修了.自治医科大学大学院修了.医学博士.2007年より現職.学生委員として最近の学生気質に戸惑っている.趣味:山歩きとワイン.
三輪佳宏
筑波大学(医学医療系)講師.京都大学大学院理学研究科生物物理専攻修了.博士(理学).2004年より現職.日本の基礎研究を守るには,一般市民の理解も欠かせないと本気で考え,2010年より「日本サイエンスビジュアリゼーション研究会(JSSV)」の幹事として,アウトリーチ支援活動にも身を投じている.

脚注

※1
留学支援の<フェローシップ>は5月頃に開設されて8月頃に締め切りで,およそ半年ずれて公募される.
※2
筆者の金城はこの両者を務めた.
※3
3つのうち2つは本記事では省略.
※4
このMRのなかには応募者が推薦した研究者も含まれることもあるが,そのSuggested MRの評価だけが高い場合にはしばしば逆の効果になることは,ご想像のとおりである.

資料提供:国際ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム機構(HFSPO).詳しい情報を知りたい場合は,HFSPOのホームページおよび日本国内向けHFSP関連情報紹介ホームページがあります.

本記事の掲載号

実験医学 2015年3月号 Vol.33 No.4
生体バリアの破綻と疾患
皮膚・粘膜におけるミクロの攻防から読み解く炎症、アレルギー、感染症

長谷耕二/企画