科学を愛するあなたのための研究費があります

本記事について

本コーナーでは2015年237月号と,国際グラントHFSP(Human Frontier Science Program)の情報を掲載いたしました.ごく手短に振り返りますと,HFSPは1987 年に日本の中曽根氏(当時首相)の発案に世界各国が賛同して始まったプロジェクトで,「生体が持つ精妙かつ優れた機能の解明」に取り組むinnovative な基礎研究を助成するものです.その審査の厳しさや選ばれる課題の先進性から,世界的には「最終選考に残るだけでも業績になる」と評価されるほど権威あるグラントと言われます.記事の掲載以来,読者の皆さまから「世界にはおもしろい研究費もありますね!」という感想が届く一方,「でも日本人が受賞することはほとんどない,狭き門ですね…」というお声も.そうしたなか,産業技術総合研究所の宮崎 亮先生が数年ぶりに日本人代表者としてHFSPの若手研究者グラントを受賞されました.そこで今回,次のHFSPグラントを狙う読者の皆さまに宮崎先生のリアルな声をお届けします.聞き手は2015年の記事でも話題をご提供いただいた,筑波大学の三輪佳宏先生です. (編集部)

本コンテンツは,実験医学同名コーナーからの転載となります(2016年10月号).

第4回
グラント獲得編

執筆(所属は掲載時)

  • 宮崎 亮[産業技術総合研究所生物プロセス研究部門]
  • 三輪佳宏[筑波大学医学医療系]

Why HFSP?

HFSPには大きく分けて,①海外留学するポスドクを支援する「フェローシップ」,②その後のラボ立ち上げを支援する「キャリア・デベロップメント・アウォード(CDA)」 ,そして③国際的な共同研究のスタートアップを支援する「グラント(若手研究者グラント or プログラムグラント)」の3つがある.今回の受賞は,なかでも本丸と言える若手研究者グラントで,3年で100万ドルを超える研究費が授与される.


三輪(以降,三)宮崎先生,HFSPグラントのご受賞おめでとうございます! 今回は,採択にいたるまでの,生々しいところを聞かせていただくのを楽しみにしています.はじめにお聞きしたいのですが,どのような研究提案で採択になったのですか?

宮崎(以降,宮)これからスタートするプロジェクトなので,あまり細かいことまではご紹介できないのですが,遺伝子水平伝播が微生物集団の構造や機能に与える影響を,実験・ゲノム・理論の3つのアプローチを使って,1細胞レベルから集団レベルまで定性的かつ定量的に記載しようというものです.

なるほど.まさにHFSPの条件の1つInterdisciplinaryですね.


図1

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HFSPグラントはInnovative,Interdisciplinary,International(できればIntercontinental)という3つの応募基準と,審査委員が純粋かつ親身に内容を評価する審査プロセスを特徴にしている.審査結果からは政治的な要素を感じることのない,真に基礎研究の価値を追究したグラントと評価される.


そもそも応募してみようと思ったきっかけはなんですか?

はじめてHFSPの存在を知ったのは,スイスのUniversity of Lausanneに留学していた4年ほど前で,産業技術総合研究所のポジションが決まって帰国準備を進めている時でした.5年間の留学中に培った欧米の人脈は自分の財産だと思っていたので,今後の研究活動になんとか活かせないか,国際プロジェクトのようなものを立ち上げられないかと,スイスのボスに相談したところ,HFSPのグラントをすすめてくれました.HFSPは極めて知名度の高い国際研究グラントで,欧米で活躍するライフサイエンスの研究者で知らない人はいません.日本に帰国したら必ず海外の研究者とproposalを書いてこのグラントに申請しようと思いました.

並み居る強豪…燃えるか,折れるか

日本だと受賞者はもちろん,申請経験者の話を聞こうと思ってもなかなか大変です.なので,そこのところを具体的に教えていただければと思います.まず,何から手をつけましたか?

やはり最初はHFSPのwebサイトをよく読みました.すごくわかりやすく情報を公開しているので,応募条件や審査プロセスが非常にイメージしやすいです.それと同時に,いかに獲得の難しいグラントであるかも思い知らされました.その採択率の低さ(毎年3〜3.5%くらい)はもちろんのこと,過去の受賞者の顔ぶれを見ると,こりゃすごい,の一言.ノーベル賞受賞者もたくさんいました.「このレベルと競うのか…」という不安と,「やってやろう」という野心を抱いたのを覚えています.

おぉ,そこで燃えるか,へこたれるかがまさに運命の分かれ道ですね.

より具体的な情報を得ることができたのは,2014年9月に産業技術総合研究所で開かれたHFSPの説明会でした.当時HFSPのcommitteeをされていた北海道大学の金城政孝先生が,日本からの応募を増やすべくご尽力されていて,HFSPグラント部長のGeoff氏と共に日本の大学・研究所や学会で説明会を開いていらっしゃいました.Geoff氏からグラントの概要はもちろんのこと,HFSP独特の評価基準や,申請書の良い例・悪い例まで具体的な情報を得ることができました.特に,Geoff氏に直接質問して回答を得ることができたのは大きかったですね.申請に向けて海外のパートナーを探すときも,「直接Geoff氏と話して確認した」というのは,こちらの本気度を伝えるのにプラスでした(笑).

その数カ月後,今度は金城先生が実験医学でHFSPについて書かれていたので2)3)よく読みました.審査員の立場として,審査のポイントや舞台裏などがリアルに書かれていたので大変参考になりました.特に,記事が出版されたのがLetter of Intent の提出前だったので,金城先生が挙げていた重要ポイントと自分のLetter of Intentをよく照らし合わせました.


文部科学省やHFSPO(HFSP Organization)などの後援により,学会や大学,研究機関においてHFSPの説明会が開催されることがある.Geoffの愛称で親しまれるHFSPグラント部長Geoffrey Richards氏の生の声を聞くことで,webサイトに標榜されている独特の審査方針が建前でなく本気であることがわかる.

ホームページは世界の窓口

Innovative,Interdisciplinary,Internationalの3つのなかで,Internationalというところのハードルがかなり高いと思うんですよね,宮崎先生は,どうやって過去に接点のない新しいパートナーをみつけたんですか?

私の場合は,HFSPでトライしてみたいざっくりとしたプロジェクトが頭の中に3つくらいありました.これらを絞り込んで洗練させていくうえで,やはり一緒にbrainstormingしてくれるパートナーが必要なわけですが,それがメンバーの1人であるPhilipp Engelでした.

彼と知り合ったのは,日本に帰国してから1年後くらいで,当時,私も妻(同じく研究者)も,日本でポジションを得て帰国したものの,海外(スイス)の恵まれた研究環境と日常生活に慣れてしまっていて,日本の生活に疲れていた時期でした.

日本の研究者は,研究以外の仕事をどんどん増やされて,そのうえ予算は減らされる一方で,研究と教育に集中させてもらえる海外との差は開くばかりですね.イノベーションは,資源のない日本を支える柱だと思うんですが….

おっしゃる通りです.日本はスイスみたいな国から学ぶことは多いと思います.スイスも地下資源のない国ですからね.

それで,再び海外のポジションを探していて,たまたま私が以前いたUniversity of Lausanneが募集していたSenior Lecturerのポジションの最終審査まで残ってinterviewに呼ばれました.その際に,Assistant Professorを始めたばかりのPhilippと出会ってお互いの研究を語り合いました.結局私はその最終審査で落ちたんですが,その後もPhilippとは連絡を取り合っていて,特に私の妻がPhilippに近い研究(社会性昆虫)をしていたので,親近感もありました.

Philippとはskypeとメールで何度もbrainstormingを重ね,HFSPのプロジェクトも1つに絞ったのですが,実験系が得意な私と,ゲノミクスに強いPhilippの他に,やはり数理モデルが使える3人目のメンバーが必要ということになり,そこからは完全に独自で探しました.私もPhilippもHFSPの若手研究者グラントの申請条件(学位取得後10年以内かつPI就任後5年以内)を満たしていたので,同じくそのキャリア条件を満たし,日本とスイス以外でPIをしている数学に強い研究者となると,かなり探すのが大変でした.

ちょっと想像しても,雲をつかむような話ですね.

それでも論文を読んだり,知人から情報を集めたりしてなんとか見つけたのが,当時Harvard UniversityのRowland Instituteで研究員をしていたAlvaro Sanchezでした.彼とは私もPhilippも全く面識がなかったので,ダメ元で私からダイレクトメールを送って,こちらの研究構想とメンバーに加わって欲しい旨を伝えたんですが,すごく興味をもってくれて2つ返事でOKが来ました.そこから3人でのディスカッションがスタートしました.もちろん,会ったこともない外国の研究者とプロジェクトを立ち上げるのは危険という考えもありますが,Alvaroの業績,メールやskypeのレスポンス,言葉遣いやコミュニケーションの取り方から,そういった不安は微塵も感じません.とても信頼しています.

日本,スイス,USA と見事にIntercontinentalという条件を満たしていますね.ところで,業績は検索でわかりますが,候補者のキャリアはなかなかネットでは探しにくいですよね.

そうなんですよ.でも,調べ始めてみると,きちんとしている人は,かならずしっかりした独自のホームページを作っていて,キャリアもわかりやすいように公開されていることに気がつきました.Alvaroもそうでした.なので,自分もすぐにちゃんとしたホームページを作ったくらいです(笑).

図2

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なるほど〜.そういえば,私も科研費の審査員を経験してから,大学の公開している職員録のページや,国のResearchMapの情報は,気をつけてアップデートするようになりました.審査のとき,けっこう確認するんですよね.

日本人が英語のホームページで,自分のキャリアをしっかり公開することは本当に大切だと思います.だって,HFSPのパートナー候補として,ヨーロッパ,USAの次のメンバーを探すときに,日本から見つけられれば,Intercontinentalの条件はバッチリですから(笑).


パートナーをスカウトする最初の連絡はメールになると思うが,どうしてもある程度長くならざるをえない.なので,くどくどと丁寧にしようとする必要はなく,むしろシンプルに自分がやりたいこと,なぜ相手が必要か,ということを伝えるのをおすすめしたい.前記の通り自分のホームページのリンクを文末の署名の中に貼っておくのも有効である.ただ,本当に難しいのは,なるべく魅力的に伝えたいけれど,全てをさらけ出すとテーマを盗まれるかもしれない,という点だ.そこのさじかげんが難しい.

いざ申請…どのくらいハード?

よいチームができて,いよいよ申請ですね.

審査は2段階で,最初はA4で3枚くらいのLetter of Intentを提出して,それが通ればFull Applicationです.いずれも基本的には3人でメールとskypeでディスカッションしながら作成を進めました.

Letter of Intentの方は,審査で1/10まで減らされますから,限られた字数のなかで余分な情報を省き,いかに際立ったインパクトのある文章が書けるかが重要だと思います.普通に書くと字数オーバーするので,最後の方は単語のチョイスにも気を配りました.ただ,A4で3枚程度の情報で一気にそれだけ削られるのですから,メンバー構成と業績でも厳しくジャッジされていると思います.実際の執筆作業は1カ月足らずでしたが,その前のディスカッションを含めると,だいたい3カ月ぐらいの期間がかかりました.

申請は大変だと思いますが,この「自由にディスカッションすること」自体は研究者としての幸せを感じられそうです.

Letter of Intentの提出が3月末で,その3カ月後くらいに結果がきました.たかだかA4数枚なれど,その提出までに3人でたくさんディスカッションしましたし,何より私がプロジェクトの代表者だったので,もし落ちたら他の2人に申し訳ないという思いがあったのですが,なんとかパスすることができました.HFSPの事務局はフランスのStrasbourgにあるので,日本時間の夜中にメールで結果通知が来て,嬉しくてあまり眠れなかったのを覚えています.

嬉しかったでしょうねぇ.準備が大変な分,喜びも大きいですね.

でも,そこからFull Applicationの締め切りまで1カ月ちょっとしかないので,すぐに切り替えて申請書の作成に取りかかりました.とはいえ,季節は夏.ちょうど欧米ではバカンスや学会シーズンだったので,まずはメンバーの2人に7〜9月の予定を聞いて,なんとか日程調整しつつ進めました.基本的には私が骨格を書いて,それを他の2人が修正・拡張していくという流れでした.

Full Applicationでは思い描いていた研究構想をガツンと書き込みます.私たちの場合は,Letter of Intent作成の時点で結構detailまで話し合っていたので筆(指?)は進みましたが,やはり要所要所で矛盾や意見対立が出たりしました.例えば,proposalで大切なのは,いかに面白い仮説を立てられるか,なのですが,当初,私の仮説に他のメンバーが「そんなのありえるかな?」と言ってきたりしました.でも,理論的には間違っていませんでしたし,私も自信がありましたから,ここは代表者として譲れないところだったので,妥協せずに説得しました.逆に,私のストーリー展開に矛盾があったり,インパクトのない記述があったりすると厳しく指摘してくれるので本当に助かりました.全員の考えを集約しつつ,方向性を見失わずにまとめ上げるのは大変でしたが,A4で30枚強のproposalをなんとか9月の締め切りまでに提出することができました.

自由に意見が言える関係を築き上げて,議論のなかでそれぞれの持ち味が相乗的に働いて,よいものができあがっていく,まさに研究者の醍醐味ですね.

約半年後の最終結果発表間近になると,毎日そわそわしていました.プロジェクト自体は3人で練りに練ったので自信があったのですが,その分ダメだったらショックだし,1年以上準備にかけた多大な労力とか,HFSPの国際的な価値,そしてプロジェクト代表者としての責任とか, いろいろ背負っていたので.もちろん,ダメだった時に,次どうするかも考えていました.やっぱり申請までの準備負担が非常に大きく,採択率も低いので,「残念でした」でHFSPは諦めるということも考えました.これだけ海外研究者とdeepなディスカッションをして,長いproposalを書いただけでも貴重な経験ができた,と.でも,ここまで練ったプロジェクトですし,それだけの価値があると信じていたので,修正を加えて次年度以降にもう一度トライしてやろう,という気持ちというか意地みたいなものが最後には芽生えていました.

そんな矢先に,例によって夜中に受賞のメールが来ました.しかも,若手研究者グラント全体で2番目の好成績という嬉しいおまけ付き.嬉しさと興奮で朝まで一睡もできなかったです.申請準備に追われて他のことに手が回らなかった頃,2人目を妊娠しながらも長男の育児と,家事と,大学の仕事をこなしていた妻に,まずは感謝しました.

フロンティアへのジャンプ

最後に,HFSPグラントを受賞する研究がどういうものなのか,もう少し詳しく教えていただけますか?

ご存知かもしれませんが,微生物(特に細菌)は,自身の遺伝情報を自己分裂によって子孫へ継承するだけでなく,異なる種の微生物細胞間でも頻繁に交換し合うことが知られています.この現象を「遺伝子水平伝播」と呼ぶのですが,遺伝子水平伝播によって微生物はいろんな生理機能を獲得しますから,「遺伝子水平伝播は微生物の進化の大きな原動力である」というのが昔から論文や教科書に書かれている常識です.でもこれって,実験室で観察して導かれた結論なので,今まさに土や海や動植物の体内で生きている微生物の間で,どの程度遺伝子水平伝播が起きて,それがどれくらい微生物集団の構造や機能,そして進化に影響を与えているのかは誰も調べたことがないんです.というか,そんな複雑な自然生態系の中にいる1ミクロン程度の細胞と,その中の遺伝子が動く様子を観察するなんて技術的にできなかったんです.

なので,私たちはそこに挑もうと.そして,単に観察するだけでなく,遺伝子水平伝播によって自然界の微生物コミュニティーがどう変化し,どう進化していくのか,その進化生態学的ダイナミクスを実験データと個体群動態の数理モデルを使って理論構築しようというのが目標です.実際には,ミツバチの腸内細菌叢を研究モデルとして,私が分子遺伝学とイメージング技術を駆使した解析を,Philippが最先端の1細胞ゲノム解析を,そしてAlvaroが理論生態学の観点からデータの定量解析とそれを利用した数理モデルを構築します.

この研究テーマは,宮崎先生のこれまでの研究から,どのようにジャンプしていますか?

そうですね,研究の仮説と手法がジャンプしていると思います.確かにHFSPではジャンプが求められますが,微生物研究者である私が,急にがん細胞や脳の実験をするようなジャンプは必要ありません.実際,私のことをよく知る人がこの研究タイトルだけを見ると,「あれ,そんなにジャンプしてないじゃん」と感じると思います.遺伝子水平伝播に関する研究はこれまでもやってきましたから.でも実は,この研究では今までの常識を覆すような大胆な仮説を立てていて,それを検証できるような新しい研究手法を提案しています.「そんな大胆なことが起きているのか?」「そんな手法は構築できるのか?」というリスクに対して,「でも,できたらおもしろい」という点が評価されたのだと思います.

ジャンプした発想を持つうえで大事なのは,普段から自分の視野を広くもって,直接,今やっている研究テーマには関係なさそうなことにも好奇心をもったり,異分野の人達とbrainstormingできるチャンスを大事にすることだと思います.これからHFSPに申請をめざす人達には,ぜひ日頃から,シンプルな疑問や,ふとした気づきを大切にしていただけるとよいと思います.極端な例で言えば,「何で生物の遺伝情報はDNAなんだろう?」「どうして猫は教えてもいないのにトイレの砂かけができるんだろう?」みたいな.

ところでその後,Alvaroには直接会ったんですか?

いや〜,それがまだなんですよ(笑).キックオフミーティングを行う予定なので,そこが初めて直接会う場になると思います.

メールとSkypeだけでもそれだけの関係を築けて,採択もされる,すごい時代になりましたね.そうしたツールの使いこなし方も,HFSPの申請には重要そうですね(笑).

プロフィール(掲載時)

宮崎 亮
産業技術総合研究所(生物プロセス研究部門)研究員.東北大学大学院生命科学研究科修了.博士(生命科学).2013年より現職.2016年より筑波大学生命環境系客員准教授(兼任).夫婦ともに研究者で,2児の育児と仕事を両立すべく日々奮闘している.
三輪佳宏
筑波大学(医学医療系)講師.京都大学大学院理学研究科生物物理専攻修了.博士(理学).2004年より現職.日本の基礎研究を守るには一般市民の理解も欠かせないと,2010年より「日本サイエンスビジュアリゼーション研究会(JSSV)」幹事として,アウトリーチ支援活動にも身を投じているが,やっぱり純粋に研究に打ち込める時間ももっと欲しい,と悩んでいる.
本記事の掲載号

実験医学 2015年7月号 Vol.33 No.11
ゲノムデータをどう扱えば、医学と医療は変わるのか
遺伝統計学の力と創薬・個別化医療

岡田随象/企画