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本コーナーについて

本コーナーは過去4回にわたり,国際研究助成HFSP(Human Frontier Science Program)の魅力と申請の実際を紹介してきました※1.「とにかく面白い基礎研究だけを授賞する」というHFSPのユニークなコンセプトに,読者の皆さまからたくさんの反響が届いています.HFSPには<研究グラント>の他に,博士号を取得したあと海外の研究室に留学する研究者を支援する<フェローシップ>,フェローシップを受賞した研究者が独立した時に研究室の立ち上げを支援する<キャリア・デベロップメント・アウォード(CDA)>があります.本コーナーではこれまでグラントを中心に紹介してきましたが,若手研究者にとってはフェローシップの方が身近なもの.「もっと詳しく知りたい!」という声にお応えして,今回は2011年にフェローシップ,2014年にCDAを受賞され,その資金を活用して独自の研究を展開されている清光智美先生にお話を伺います.聞き手は第2回に続き,フェローシップの審査員経験をおもちの原田慶恵先生です.(編集部)

本コンテンツは,実験医学同名コーナーからの転載となります(2017年7月号).

第5回
フェローシップ(留学助成)獲得編

執筆(所属は掲載時)

  • 清光智美[名古屋大学大学院理学研究科・助教]
  • 原田慶恵[大阪大学(蛋白質研究所)教授]

海外学振不採択からの…

原田(以降,H)本日はHFSPの<フェローシップ>獲得について清光先生の体験談をお聞かせいただけるということで,よろしくお願いします.そもそも海外の研究室に留学しようと思ったきっかけは何ですか? 研究室はどのように選ばれたのでしょうか.

清光(以降,K)留学にはさまざまな理由やメリットがあると思います(UJAの『留学のすゝめ』参照1)).私の場合は2008年に博士号を取得した後,ポスドクとして同じ研究室で2年間研究を続けました.しかし,海外で研究生活をしてみたいという思いが強くなり,留学先の研究室を探しました.当時,優れた論文を立て続けに出していたMITのIain Cheeseman博士と一緒に仕事をしてみたいと思い,学会でお会いして直接話をした後で,彼のラボを訪問し,具体的なプロジェクトや研究・生活環境などを考慮したうえで総合的に決めました(写真1).受け入れ研究者の過去の業績や研究施設の充実度も重要ですが,将来日本でPIを目指すことへの理解や,生涯に渡ってメンターとしてサポートしてくれる人柄かどうかも重要だと思います.

その数カ月後,今度は金城先生が実験医学でHFSPについて書かれていたので2)3)よく読みました.審査員の立場として,審査のポイントや舞台裏などがリアルに書かれていたので大変参考になりました.特に,記事が出版されたのがLetter of Intent の提出前だったので,金城先生が挙げていた重要ポイントと自分のLetter of Intentをよく照らし合わせました.

写真1

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HFSPフェローシップでは受け入れ研究者および研究室も審査の対象となる.受け入れ研究室のPIは,一流の確立した研究者であるか,新進気鋭の研究者でなければいけない.また,受け入れる研究機関の施設が充実していることも重要となる.もちろん,受け入れ研究者が申請者の受け入れを強く希望していることや,優れた指導者であるかなども精査される.


H海外の研究室に留学する研究者を支援する奨学金には日本学術振興会(JSPS)の海外特別研究員や,民間の財団の海外留学助成金制度などいくつかの奨学金がありますが,HFSPのフェローシップに応募した経緯とその魅力について教えてください.

K留学前に奨学金に応募する時間がなかったので,最初の1年間は受け入れ先のCheeseman博士に雇ってもらいました.その後で自分のキャリアアップと受け入れ先の負担軽減のために,奨学金に応募することにしました.JSPSの海外特別研究員,HFSPフェローシップ,Life Sciences Research Foundation(LSRF),上原記念生命科学財団の海外留学助成の4つの申請書を用意しました.最初に結果の出たJSPSの海外特別研究員が不採択でしたので,これはマズイと思って,申請書をさらにブラッシュアップして,HFSP,LSRF,上原財団の奨学金に応募しました.

Hえっ! 海外学振が不採択になった後で,HFSPフェローシップに応募して採択されたのですね.

Kはい,多くの方は海外特別研究員に比べ,HFSPフェローシップは難易度が高く採択されるのが難しいと思われるようですが,私の場合は逆にHFSPに採択していただけました.また私の場合,3大誌(Cell,Nature,Science)に論文を出していなくても採択されました.挑戦する前から諦めずに,積極的に応募してみてはいかがでしょうか.

HFSPは数あるフェローシップのなかでも,3年間と期間が長く,また受給期間を柔軟に変更できたり,研究費がついたり,フェローシップ受給後にCDA(Career Development Award,後述)に申請できたりするため,将来のキャリアを考えるうえでもとても魅力的です.


HFSPのフェローシップの期間は3年間.生活費,研究費と旅費が支給される.支給額は国によって異なるが,受け入れ機関が米国の場合,生活費は3年間で14万6千220ドル(年間4.68千ドル相当の家族手当もある),研究費は年間4.925千ドルになる.採択が決まった場合,その年の4月1日から翌年の1月1日までの間にフェローシップを開始する.3年間というのは,JSPSの海外特別研究員をはじめ2年間の支援が一般的であるなかで,留学助成としては最長の支援だ.さらに,最終の1年間は最長2年間とっておいて(例えばその間は,別のグラントや研究室の別の経費などで雇ってもらうなどして),4年間受け入れ研究室で研究をした後,本国に帰国し,1年間HFSPのフェローシップの支援を受けることもできる.研究者の都合で柔軟な使い方ができる支援であるというのがHFSPフェローシップの特長といえる.清光先生のケースはを参照のこと.

図

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周りのサポートがあれば英語の申請も怖くない

HHFSPフェローシップは申請書作成が難しいということをよく聞きます.清光先生はどのように申請書を作成されたかについてお聞かせください.

Kはい.私は大学院博士課程では染色体分配の仕組みについて研究していました.HFSPフェローシップの審査基準として研究分野を変えることが推奨されていましたし,私も変えたいと思っていたので,細胞分裂方向やサイズ制御の仕組みと細胞運命決定の関連にシフトした研究提案を考えました.原田先生が以前に実験医学に寄稿されていた「フェローシップ申請編」2)にあったように,申請書の最初の数ページは特に重要なので,推敲を重ねました.他の申請と違って,図表を使うことができないので,より明確でわかりやすい申請書になるよう心がけました.発案はもちろん自分自身ですが,Cheeseman博士と研究内容について議論を重ね,英語を直していただきつつ進めました.また同じ研究所内や,大学院の先輩など,受賞経験者から見せていただいた申請書が,大変役に立ちました.

HHFSPフェローシップは研究分野を変えることを推奨しているのがポイントですね.実際審査基準にも「研究の方向性を変えているか」という観点があります.ただ,その程度がわからず悩む方が多いようです.清光先生の場合「染色体分配の仕組みの研究」から「細胞分裂方向やサイズ制御の仕組みと細胞運命決定の研究」に研究テーマを変えたということですが,とても参考になりますね.

Kもっと詳しく言えば,同じ細胞分裂期研究の範囲内で,染色体から細胞皮層領域に分野を変えたことになります.将来的には,培養細胞から幹細胞や個体レベルの研究を目指したいと提案しましたが,いきなり大きく変えなくても十分に考慮してもらえるようです.

H審査には推薦書が非常に重要であることも「フェローシップ申請編」2)に書きましたが,清光先生の場合,推薦書を誰にお願いするかについてどのようにして決めましたか?

K3通の推薦書が必要ですので,大変ですよね.私の場合,学位論文の指導教授と受け入れ先のPIであるCheeseman博士に加えて,イギリスの大学教授にお願いしました.ヨーロッパでの学会後,ラボを訪問し,学位論文の研究成果を一度聞いていただいただけの関係でしたが,心よく引き受けていただけました.異なる3カ国の研究者から推薦書がもらえたことは,審査員に好印象を与えたかもしれません.


HFSPフェローシップには,<長期フェローシップ>と<学際的フェローシップ>がある.運営支援国※5の研究者が他国の研究機関に行く場合,および非運営支援国の研究者が運営支援国の研究機関に来る場合が対象となる.長期フェローシッププログラムは,生命科学分野の博士号取得者が外国の優れた研究室で,博士号取得時の研究分野とは別の新しい研究分野の訓練を受けられるように助成する事業だ.学際的フェローシップは生命科学分野以外(物理学,化学,数学,工学など)で博士号を取得した若手研究者が生命科学分野の研究経験を積もうする場合を対象としている.フェローシップの応募資格は申請締切時に博士号取得から3年以内であること,フェローシップ開始時に博士号を有していること,申請者が主執筆者となっている論文が1報以上,査読が行われる国際的な学術誌に発表あるいは掲載受理されていること,である.申請者の経歴や研究実績,将来のキャリアに明確なビジョンをもっているかなどが審査される.また,最も重要なのは,申請者本人によって革新的,独創的,挑戦的な研究プロジェクトが提案されているかということだ.


貴重な独立スタートアップ資金

H清光先生はフェローシップ後に,CDA(Career Development Award)も受賞されていますが,これはどのような助成でしょうか?

K詳細はHFSPのウェブページ3)を参照していただきたいのですが,CDAは,HFSPフェローシップの受給者で,母国あるいは当該フェローシップによる研究を行っていた国に移って,独立した研究室を立ち上げる研究者を支援するためのグラントです.

H具体的にはどのような内容でしょうか?

K年間10万ドルを3年間支給されます.採択率は2014年度で約20%(12/62)と厳しいですが,フェローシップ受給者に申請が制限されていますので,積極的に応募をお勧めしたいです.また私の帰国後のポジションは助教であり,正規のPIポジションではありませんが,所属講座の教授の理解が得られれば,実質的なPIとみなされ,申請することができます.また開始時期を1年間の範囲で選択できますし,予算の繰越も1年間は可能と,フェローシップ同様に柔軟な運用が可能です.

今の日本では,帰国後すぐにスタートアップ費用のついたポジションに就職できることはまれです.科研費や財団の研究助成金を集めてもなかなか欧米の若手PIポジションのスタートアップ費用には届きません.ですので,CDAは若手基礎研究者の独立を支える極めて貴重な研究グラントとして役立っており,私自身も大変感謝しています.

HフェローシップからCDAと,受賞を振り返ってよかったと思えることは何でしょうか?

K自分のアイデアを提案し,それを認めてもらえて,そのお金で自分の生活費を獲得できたのは,大変自信になりました.またそのサポートのおかげもあり,各種講習会や学会にも参加できましたし,異分野に挑戦し,そのテーマを帰国後も継続できることにもなりました.また世界各国から集まる同世代の研究者とも交流できましたし,ボストン近郊での日本人勉強会を通じて,個性的な日本人とも出会うことができました.ボストン近郊の海や雪山で遊んだりする一方,日本では出会うことのない個性的な人たちと純粋にサイエンスを議論できたことはとても楽しい時間でしたし,今後の研究人生の大切なネットワークになると信じています.

また,帰国後,私の研究を進めるためには,どうしても光照射と高解像度の撮影を両立できる顕微鏡装置が必要だったのですが,CDAや他の研究費のおかげでなんとか購入することができました(写真2).最近になってようやく,ワクワクするよい結果が得られてきましたので,現在はこれらの研究成果を論文として早く公表できるよう頑張っています.

写真2

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経験を活かしてHFSPグラントへ

K一連のHFSPの研究サポートのおかげで,私は新たな研究分野やメンター,友人に出会い,また光を使ったタンパク質の局在操作や分裂軸操作などユニークな細胞操作技術を発展させることができました.今後は,タンパク質複合体のin vitro再構成や結晶解析,発生期初期での細胞分裂操作など,私が不得意とする実験を共同研究として推進することで,より多角的に研究を発展させていきたいと考えています.その際は,もちろん,HFSPの研究グラント(若手研究者グラントやプログラムグラント)にも積極的に挑戦したいと考えています.

Hフェローシップに応募された経緯や,研究室選び,申請書の作成,さらに,フェローシップ終了後のCDAについてまで,ご自身の体験をお話しいただき,ありがとうございました.博士号取得後,海外の研究室で研究してみようと思っている方にはとても参考になったのではないかと思います.2017年のフェローシップ申請も8月の予定ですので,ぜひ,多くの若い研究者の方に応募いただき,海外の研究室に留学して,日本にいてはできないさまざまなことを体験するとともに,たくさんの海外の研究者の友人をつくってほしいと思います.HFSPフェローシップはそんな皆さんを支援するグラントです.

文献

  1. 留学のすゝめ
  2. 原田慶恵:実験医学,Vol 33 No.11:1817-1823, 2015
  3. HFSP Career Development Award

脚注

※1
羊土社ウェブサイトで過去の記事の全文をご覧いただけます.
※2
本来3年のところ大学着任に伴い2年4カ月で終了.
※3
受賞年の4月〜翌年3月で選べる.
※4
開始から3年間(2018年2月まで).
※5
日本,アメリカ,EU,ドイツ,フランス,イギリス,カナダ,イタリア,インド,韓国,スイス,オーストラリア,ノルウェー,シンガポール,ニュージーランド(拠出額順).

プロフィール(掲載時)

清光智美
名古屋大学大学院理学研究科・助教.京都大学生命科学研究科(柳田充弘教授 研究室)修了.生命科学博士.2010年よりホワイトヘッド研究所・MIT,Iain Cheeseman博士研究室で博士研究員.’13年より現職.帰国してほぼ4年経ってしまいましたので,そろそろ論文を連発せねばと奮闘中です.
原田慶恵
大阪大学(蛋白質研究所)教授.大阪大学大学院基礎工学研究科修了.工学博士.2016年より現職.昨年京都大学から大阪大学に異動しました.京都の自宅から阪大吹田キャンパスまでの片道1時間半の通勤時間をどのように有効活用するかが目下の課題です.
本記事の掲載号

実験医学 2017年7月号 Vol.35 No.11
ユビキチン化を介したオルガネロファジー
不要なオルガネラを認識・分解するオートファジー

松田憲之/企画