[Opinion―研究の現場から]

本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第1回 若手研究者が考える,科学と社会の関わり

「実験医学2010年7月号掲載」

社会における科学の意義が問われる印象的なイベントとして,行政刷新会議による事業仕分けがあった.科学と社会の関わりにおける問題は今までも取り上げられてきた.しかし,今後ますます科学の外の世界から科学の意義を問われることになるだろう.研究者がこうした問題について考えることは,社会の中での科学の地位を確固たるものとし,科学そのものを発展させるために重要である.

アメリカにはAAAS(http://www.aaas.org/)という団体があり,国際的に活躍する教育者や科学者を輩出するとともに,雑誌『Science』の出版やその他の科学コミュニケーションを非営利に行っているが,日本にはそのような団体は存在しない.科学の意義が広く理解された環境を日本でも実現するためのきっかけとして,将来の研究の最先端を担う若手が科学と社会について継続的に考える場を設けることが重要なのではないだろうか.

もちろん,若手研究者が今まで何もしてこなかったわけではない.三十数年前にはオーバードクター問題(博士課程修了者の就職先が見つからない問題),近年ではポスドク問題(正規雇用に就けない任期制の研究者が多い問題)をきっかけに,多くの若手が団結した.最近では「科学研究の意義とはなにか?」について考える合宿(http://www.seikawakate.org/retreat/)を行い,普段は会うことのない若手研究者同士が答えのない問題について意見交換をする機会を設けた.また,事業仕分けの際には「26の若手の会による共同声明」(http://sites.google.com/site/wakatekyoudouseimei/)を発表し(2010年2月),科学研究および若手研究者を国がサポートする重要性について各分野の若手研究者が自分たちなりの立場で考え,提言を行った.しかし,こうしたイベントをきっかけに若手研究者のネットワークが形成されても,なかなか継続されないのが現状である.実際,科学と社会をテーマとして今も継続的に活動を行っている若手の団体は皆無に近い.

若手の活動団体が継続しないことで起こる一番の弊害は,意見が成熟しないことである.単発的に立ち上がった団体では,お互いを深く知らない者同士が短期間で意見をまとめなければならないので,意見は最大公約数的で無難な内容となる.社会に影響力のある発信をするためには,継続的な議論によって練り上げられた若手の意見が必要不可欠である.

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では,どのようにしたら継続的な活動を行っていけるのだろうか.ここでは,定期的なイベントの活用法について考えてみたい.定期的なイベント開催の利点には,活動の継続に意義を見出しやすいということ,世代の継続が容易であるということの2点が挙げられる.ある1回限りのイベントを行うよりも,毎年の活動を目標にしたほうがイベント終了後に次回を企画するモチベーションを保ちやすい.また,参加者公募型のイベントには,多方面から人を集めやすいという利点もある.多くの若手研究者の活動団体は,世代間での引き継ぎがなされずに団体が消滅してしまうリスクに常にさらされている.学生には,大学院の修了をきっかけとしたメンバーの脱退という特有の事情があるためだ.この点で一般参加型のイベントは,参加者から次期の有志の企画者を定期的に集めることが容易であり,安定的に企画者を供給できると考えられる.

科学と社会に関する問題は,そもそも明確な解が存在しない問題である.それでも,若手科学者一人ひとりが科学と社会における問題について考え,議論を続けるしくみを模索することが必要だといえる.そして,議論をする土壌が成熟すれば社会への質の高い発信も可能となり,社会と科学のよりよい関係が構築されるであろう.

谷中冴子(生化学若い研究者の会 キュベット委員会)

※実験医学2010年7月号より転載