[Opinion―研究の現場から]

本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第2回 海外での日本人コミュニティの役割・運営方法

「実験医学2010年8月号掲載」

留学先を決めて,渡航手続きを自分一人でしようとすれば大変なことになる.しかし海外には先に留学した先輩達が,その土地でコミュニティをつくっている.他にも「英語が苦手な国出身の人達のコミュニティ」や,おそらく世界最強であろう「ユダヤ人コミュニティ」があり,各大学にはPost-doc associationがある.これらは日常の些細なトラブルから共同研究までネットワーキングに利用されている.ここでは留学する研究者が利用する日本人コミュニティについて説明する.

コミュニティには一般的にメーリングリスト(ML)主体のものと勉強会主体のものがある.ML主体のものでは,研究留学ネット(現在休止中)が有名で,全世界にいる研究者がメールを送ることができた.ローカルのMLは「都市名」や「国名」「メーリングリスト」などで検索できる.主に渡航時のセットアップ,日常の些細な疑問,イベント情報,「日本への細胞の輸送方法」などの研究の質問,ポジション情報,日本帰国に際しての家財道具の引き継ぎなどに利用されている.

勉強会主体のものは数名の運営委員によって,大学の教室で定期的あるいは不定期に開催される.MLとブログを通して会の情報が流され,数個のトピックをセミナー形式で議論する.トピックはコミュニティの主旨によるが,研究内容の発表,キャリアアップ,長期滞在するうえでの疑問など,多岐にわたる.勉強会の後にランチや懇親会(飲み会)があり,さらに情報交換を行うことが可能である.

勉強会参加の利点は日本語での情報交換ができることである.のんびりとしていた私は,「Postdoctoral Fellowshipの応募はPhDを取ってから5年まで」ということを(ボス共に)知らなかった.「情報を自分で集めなければ大変なことになる」と思っていたときに,誘われて「プロ研究者への道(現在解散)」を友人数名と立ち上げたのである.日本人1人がもっている情報は非常に少ない.しかし日本人100人の情報はアメリカ人や他の外国人1人の情報よりも多いだろう.日本人同士の共同研究のほうが円滑に進むかもしれない.勉強会参加の欠点としては,日本人の友人が増え過ぎ,結果英語が上達しなくなる可能性があるぐらいである.

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気に入ったコミュニティがない場合は,友人を誘って立ち上げよう.まず,他のコミュニティとの差別化をはかるために主旨をはっきりさせる.次にMLを立ち上げる.Google group(http://groups.google.co.jp/)が現時点では一番お勧めである.コミュニティの存在を知らせるため,ブログで勉強会の案内をし,開催後は内容を報告する.場所は,研究などと関連したことであれば,大学関係者は大学の教室を借りることができる.研究室の秘書さんやいろいろな人に聞いて会場を確保しよう.運営方法がわからない場合は他のコミュニティを1年ぐらい手伝ってみるといい.そしてボランティアであることを運営側も参加側も認識し,のんびりやることをおすすめする.

運営上の一番の問題は,知りたい情報を話してくれる人を見つけることである.私の場合,最近PIになった人を見つけるのが大変であった.その他の問題点は「ネタ切れ」と「会をいつまで存続させるか」である.主要メンバーが知りたいことを皆学んでしまうとネタ切れになり,初代の運営委員が忙しくなると引き継ぎが行われる.勉強会の性質によるが,解散という手もある.元気な人が新しいグループを立ち上げ,好きなように運営したほうがうまく行くこともあるだろう.

1番の利益をうけるのは運営委員である.高品質の生の情報が大量に流れ込んでくる立場にいられるからだ.右の情報を左に伝えるだけで感謝されるし,日本人コミュニティで名前を売ることができる.コミュニティを運営した実績はCVにも書ける.留学最初は誰かに遠慮なく助けてもらい,その後来た人たちを助けるのがよいと思う.

安田 圭(ボストン大学医学部)

※実験医学2010年8月号より転載