[Opinion―研究の現場から]

本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第3回 両立できる? 研究者夫婦の子育てと仕事

「実験医学2010年9月号掲載」

研究者同士の結婚には,どんな問題があるのだろう? 科学を志す研究者同士は接する機会が多く,互いが夫婦になることもある.しかし,研究者の育児の現状を考えると,幾多の難題が浮かび上がる.いわゆる結婚適齢期の研究者の多くは任期制研究員であり,期間内で成果を上げたうえで次の就職先を見つけ,研究を続けなければならない.そのため研究職のキャリア形成においては,育児によって生じるブランクが他業種以上に大きな負担となるのである.

研究者夫婦の子育てに若手研究者(大学院生)の多くが問題意識を抱えていることは,われわれ生化学若い研究者の会が2009年に開催した「第49回 生命科学 夏の学校」でのアンケート調査(男性67名,女性37名が回答.約75%の回答者が学部卒業・大学院修了後に研究職を志望)から裏付けられた.

質問内容と結果のうち,2つを紹介したい.まず,「研究者同士の夫婦の育児に関して問題になると思われることは?」という質問では,回答者の約半数が子供との時間の少なさや金銭的な面に対して問題意識を抱えていることが明らかになった.また,「育児休暇(3カ月程度)をとるとしたら,どのようなスタイルでとりますか? ただし,夫婦が同程度の給与を得ていると仮定します.」という質問には「(妻も夫も)両方とる」と答えた回答者は男性の58%,女性の46%に上り,意外にも男性の育児参加への意識が高いことが見てとれた.

こういった若手の意識と対比して,実際の研究機関における育児休暇の現状をみてみたい.東京大学は,子育て支援企業の「くるみん」認定マークを取得しており,研究機関のなかでも育児に対する制度が整っていると考えられる.しかし,女性の育児休暇の取得率は平均31.1%〔東京大学女性研究者アンケート調査結果報告書(東京大学男女共同参画オフィス)〕と,同規模の一般企業の平均取得率である90.6%〔平成20年度雇用均等基本調査(厚生労働省)〕を大きく下回る.育児と研究の両立には,育児で生じる研究ブランクがキャリアに与えるデメリットを最小限にすることが重要であることが,この数字から見てとれる.

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この問題に機関全体で取り組むよい例として,独立行政法人森林総合研究所の「応援します! 家族責任を持つ女性研究者」プロジェクトがあげられる.このプロジェクトは,育児により研究を一時断念したとしても研究活動を再開できる体制づくりをめざしたものである.出産,育児履歴を考慮した採用や,自宅でも研究業務に携われるようにするためのIT環境の整備など,サポート体制が充実している.

ここで男性の育児休暇取得の現状に目を向けると,若手研究者の意識との格差が明らかになる.すなわち,子どもをもつ男性研究者で育児休暇を取る者はほとんどいないのだ.この現状には,夫の育児休暇取得に対する周囲の理解不足が影響しているのではないだろうか.夫が育児へ参加できるようになれば,女性研究者が研究と育児を両立する大きな手助けとなる.男性の育児への周囲の理解を改善するためには,地道にセミナーなどを継続していくことが必要であろう.

もちろん,研究成果を上げ,研究者として生き残るためには研究者自身が努力しなければならない.しかし,育児によって生じるブランクが研究者に与える影響を最小限に抑えるためには,より一層の制度の充実や周囲の理解が求められる.

神馬繭子(生化学若い研究者の会 キュベット委員会)

※実験医学2010年9月号より転載