[Opinion―研究の現場から]

本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第11回 迷える医学生?情報交換が導く道とは?

「実験医学2011年5月号掲載」

ポスドク問題や事業仕分けなど,研究者をとりまく環境が変化しつつあるが,医学部では医学生の基礎研究離れも問題になっていることをご存じだろうか.

医学部のカリキュラムは,低学年で解剖学・生化学などの基礎医学,その後臨床医学の座学,病院実習というように進む.カリキュラムは徐々に臨床現場に興味をもつようにできていて,当初基礎研究に強い興味を見出していた学生も含め,ほとんどの学生が臨床に進む.この雰囲気の中で基礎研究にアフィニティを保ち続けるのは容易ではない.また,医学部は6年制であり,医療現場で働くためには,さらに初期臨床研修2年が必修化されたので,実際に研究に打ち込みはじめる時期は相当遅くなってしまう.

それでは医学部はどのような対策をしているのか.東京大学(東大)では2008年から,MD研究者育成プログラムと称して基礎研究に興味がある学生を集め,医学部の通常カリキュラムをこなしつつ,定期的に抄読会などを行い,研究室への配属を斡旋している.私はこのプログラムの第一期生であり,神経細胞生物学教室(岡部繁男教授)に在籍し,主にアストロサイトの形態制御について研究を行っている.他大学でも同様の取り組みがあり,昨夏には千葉大学・群馬大学・山梨大学と合同でリトリートが開催された.研究志向の学生が重要なデータを出しているのを目の当たりにし,大変良い刺激を受けた.学部主体で情報発信した結果,学生が感化された一例といえよう.

医学部5・6年生のカリキュラムは病院実習中心である.特に東大では実習以外に求められる義務はほとんどなく,比較的自由に時間を使える.5年の間はテストも一切ない(ただし,6年秋からの卒業試験は30科目以上に及ぶ).各々,好きな活動に時間を使えるわけで,その対象は部活・勉強・恋愛・バイトなど多岐にわたる.しかし,この期間にあえて足繁く研究室に通う学生は少数派だ.かくいう私も,東大医学部同窓会紙「鉄門だより」の編集長として月刊の新聞発行に時間の大半を割いた.その際,会員限定で鉄門だよりをWeb公開する計画があった.当初議論が紛糾したが,クラウド化や「自炊」といった時代の流れもあり,最終的には先生方・同級生・編集部員のご協力のおかげで成し遂げられた.主体的に情報を発信してコミュニケーションをとり,最終的に合意に至る重要性に気付けたのだが,これは昨今注目を浴びるアウトリーチ活動に相通じる部分がなかろうか.この稿も鉄門だよりの取材から話がつながって生まれたものだ.

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近年の情報のやりとりの仕方は確実に変化している.SNS(Social Networking Service)はその代表例だろう.TwitterやFacebookは,良くも悪くも全世界に向けて自分のメッセージを発信できるし,ブログより話題がさらにタイムリーであることが多い.今年の1~3月にNovartis社のインターンシップでBostonに行ける機会があったが,その際も知り合いの紹介とSNSのおかげで多くの研究者の先生方に急なアポイントを受け入れてもらえた.

既存のメディアだけではなく,新しい形による情報交換がどういう方向に向かうのか.誰でも情報が発信できる時代に求められるのは,逆説的ではあるが確かな情報源であろう.情報が錯綜する世界に迷える一人ではあるが,自らも世間に向けて発信していきたい.

将来,神経科学の分野で基礎と臨床の橋渡しをしたいという思いを秘めつつ,ひとまず医師国家試験の勉強に精を出しはじめたところである.この稿を閉じるにあたり,私の勝手気ままな活動を支援・指導してくださる方々に感謝いたします.

田宗秀隆(東京大学医学部6年/MD研究者育成プログラム)

※実験医学2011年5月号より転載

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