[Opinion―研究の現場から]

本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第26回 研究者だからできる! 高校生への科学教育実践例

「実験医学2012年8月号掲載」

「スーパーサイエンスハイスクール(以下,SSH)」をご存知だろうか? 文部科学省の事業で,将来の国際的な科学技術系人材を育成することを目指し,理数教育に重点を置いた研究開発を目的とする,高等学校などを対象とした教育支援制度である(http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/24/03/1318980).平成14年度から実施され,平成24年度のSSH指定校数は178校,平成26年度には200校を目指している.注目すべき課題として,SSHでは大学における体験授業の実施など,研究者との連携が期待されている.一方,平成22年に内閣府科学技術政策として「国民との科学・技術対話」が公表され,研究者と国民の間で研究内容の理解を進めていく活動が求められている(http://www8.cao.go.jp/cstp/stsonota/taiwa/).

そこでわれわれは,SSHと「国民との科学・技術対話」という2つの事業の狙いを同時に達成できる活動を試みた.本稿では所属研究室で実施したSSH指定校の生徒への体験授業,およびアンケート調査の結果を紹介する.

体験授業はわれわれ大学院生で企画・実施し,適宜,教授の助言を参考に進めた.具体的には,マウスの解剖,組織切片の観察,アガロース電気泳動したDNAの観察,GFP発現細胞の観察を行った.授業内容を検討する際,研究室の特徴や利点を最大限活かしつつも,生徒の知識や興味・関心を考慮すると同時に,限られた時間内で安全に遂行できるように注意した.また,授業内容についてSSH指定校の教員と事前に相談することで改善できた点も多々あった.

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授業後,23名の生徒に無記名でのアンケートを行った.授業全体の満足度については「とても満足(回答人数21名,以下数字のみ記載)」「満足(2)」「ふつう(0)」「不満(0)」「とても不満(0)」と,全員から満足以上の回答を得ることができた.科学や研究に対する興味・関心が高まったか? という問いでは,「強くそう思う(14)」「少しそう思う(9)」「あまり思わない(0)」「そう思わない(0)」「分からない(0)」と,生徒の科学や研究に対する興味・関心の向上が確認できた.研究室・研究者を身近に感じるようになったか? という問いでは,「強くそう思う(7)」「少しそう思う(15)」「あまり思わない(0)」「そう思わない(0)」「分からない(1)」と,研究業界への理解が深まったと考えられる結果となった.一方,将来研究者になりたいと思うか? という問いでは,「強くそう思う(2)」「少しそう思う(12)」「あまり思わない(6)」「そう思わない(1)」「分からない(2)」と,満足度や興味・関心の高さなどと比べて否定的な回答がやや多く,職業としての研究者の魅力を伝えるにはさらに内容の検討の余地があるとわかった.特に印象に残った内容を問うたところ,「教科書でしか知らなかったものを実際に見ることができた」のように,本物の生物試料を目の当たりにした点を挙げる記述が目立ったことから,実際の研究室で実施したことの利点を最大限活かすことができたと思われる.さらに今回のような体験授業を望む研究分野を問うたところ,再生医療,がん,iPS細胞などが挙げられ,生徒のニーズが明らかとなった.

今回の体験授業はわれわれにとって初の試みだったにもかかわらず,事前の計画通り安全に実施できた.生徒へのアンケート結果からも,授業内容は生徒の科学教育に貢献でき,SSHで期待されている研究者との連携が成功したと考えている.よって,SSHの課題に応えた有効な「国民との科学・技術対話」が達成できたと判断している.高等学校などへの体験授業を考えている読者の方々に,本稿が少しでも参考になれば幸いである.

木村栄輝,ベナー聖子(東京大学大学院医学系研究科)

※実験医学2012年8月号より転載