[Opinion―研究の現場から]

本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第22回 新しいステージで世界にチャレンジする―BIOMODの場合

「実験医学2012年4月号掲載」

2011年,BIOMOD(International Bio-Molecular Design Competition:国際生体分子デザインコンペティション)という学生のための国際大会が新たにはじまった.筆者は,この1年,東京チーム(東工大・東大連合チーム)のメンターおよび大会審査員としてこの新しいコンペティションにかかわった.本稿では,このような国際大会に参加し,学生が自由な発想で世界に挑戦する活動について紹介したい.

BIOMODは,生体分子ナノ・マイクロテクノロジーの国際ロボコンという位置づけで,米ハーバード大学の研究者らによって発案された大会である.学生達は,春先にチームを結成し,プロジェクトを練り上げ,夏休みという限られた時間を使って実験を行う.そして,11月はじめに開催される大会で,研究成果をプレゼンテーションして,各国のチームと競い合うのである.

今回の第1回大会は,2011年11月5日にハーバード大学で開催され,10カ国21大学のチームが参加した.設計・構築する対象に制限はないので,多岐にわたる非常に独創的な研究が展開された.たとえば,総合優勝したデンマークのオーフス大学は,刺激に応答してsiRNAや薬剤を放出できる,ナノサイズのRNA四面体構造の研究を行った.準優勝の東京チームは,DNAの反応で動く細胞サイズの自律型分子ロボットの構築を行った.

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本大会は,DNA・タンパク質などの各マテリアルの性質を理解し,自分たちで“一から”システムをデザインし実際に構築するというところが新しい.類似した国際大会であるiGEM(国際遺伝子工学コンテスト)の場合,細胞内で動く遺伝子回路の設計・構築が主目的であり,遺伝子回路が動くフレームワーク(容器)である細胞自体に関しては,自然にあるものを借りているといえる.BIOMODの場合,生体分子の構造・機能・相互作用,そしてそれらが発揮される反応場・空間まですべてが設計・構築の対象となる.生命科学・化学・物理学・情報科学などの垣根を越えた真の融合科学ステージでの無差別級の闘いである.大学で基礎実験レベルの実験トレーニングしか受けていない学生達が半年間でこのような世界の最先端技術まで一気に上り詰めるのであるから,非常にアクティブでワクワクする活動であることは間違いない.

コンペティションで評価の高かったチームの特徴は,新しいアイデアを学生自らが発案し,自ら手を動かしていたということだったと感じる.したがって,メンター教員の研究室で走っているテーマを逸脱しないようなネタなどは,学術的には非常にクオリティの高い研究であっても最大限の評価は得られなかったようである.これは,「大学や研究室の研究テーマを学生にやらせたような,宣伝目的の代理戦争を学生にやらせるのではなく,学生がアイデアと半年間の努力だけで真っ向から勝負できる場をつくるべきである」と審査員が感じたからではないかと思う.ぜひ,次回以降もこのような良い空気は残し,学生の本気の情熱を受け入れる場であって欲しいと思う.

最後に,日本から参加した3チームの大活躍を紹介しておこう.東京チームは準優勝に加えて,ビデオ部門賞2位と金賞を獲得,東北大学チームは金賞,関西大学チームはプレゼンテーション部門賞2位,ロボコン競技部門賞1位,金賞を獲得した.金賞は10チームに与えられたが,そのうち日本3チームすべてがこのなかに入っているという快挙である(詳細はhttp://biomod.net/winners).本分野における日本の学生のパワーを目の当たりにした.本稿を読んでいる学生でBIOMODに興味をもった学生は,チームを組み,身近にいる先生に頼んでBIOMODプロジェクトをはじめさせてもらったらどうだろうか.2012年大会参加にはまだ間に合うだろう.

瀧ノ上正浩(東京工業大学大学院総合理工学研究科/JSTさきがけ)

※実験医学2012年4月号より転載