[Opinion―研究の現場から]

本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第39回 若手研究者にとっての研究のアウトソーシング

「実験医学2013年9月号掲載」

アウトソーシングとは従来組織内部で行う業務を外部に委託し,経営資源を補完する方法の1つで,中心業務に集中できることからさまざまな業種で一般的になっている.大学の研究室においてもプライマーやペプチドの合成,DNAシークエンス・サービスなどの外注は一般的になっており,利用されている方も多いだろう.前記のような受託サービスや受託研究・解析はもちろん,共同研究や公的な技術支援も広い意味での研究のアウトソーシングであると言える.若手研究者にとって研究のアウトソーシングとかかわる機会は多くはないが,研究の高度化・効率化を求められる今日においてはその活用はますます重要になってくる.筆者が専門とする生理学分野においては,遺伝子改変動物を用いた実験の普及やオプトジェネティクスなどの流行によって,専門外の生化学的,分子生物学的,遺伝子工学的手法を取り入れる動きが活発である.そこで筆者らは2013年3月の日本生理学会大会において,研究のアウトソーシングを取り上げたシンポジウムを開催した.本稿では前記シンポジウムを通して筆者が考えたことについて簡単に述べたい.

近年,研究成果を論文などとして発表するにあたって,複数の手法で多角的に検討することが要求される.一般にレベルの高いと言われている雑誌はもちろん,専門誌においてさえもさまざまな研究手法が要求される.査読者の過大な要求に対して不満を口にしたことがあるのは筆者だけでないだろう.

多くの研究費では期限内に確実な成果を求められるため,研究成果を効率的に出すことが重要である.しかし,一部の企業や研究室を除き,必要となるすべての研究手法・装置を自前で用意することは,金銭的,時間的,人的コストの面から不可能に近い.新しい研究手法や装置のためのコストは研究の幅を広げるために必要な投資ではあるが,手を広げすぎて専門分野に集中できないという事態になりかねない.研究の独自性と専門性を高めるためにもアウトソーシングの利用は重要な意味をもつ.

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一方,企業など営利団体のアウトソーシング・サービスを利用する際に一番の問題になるのが,費用の面である.ふつうの研究室の財政事情では,気安く利用できるものではない場合が多い.共同研究という選択は金銭的なコストを抑制できるが,共同研究先を探すことは容易ではなく,研究業績の帰属の問題などが生じる可能性がある.研究のアウトソーシングを共同研究として行うか,企業などに依頼するかの判断は,研究をマネジメントするうえで重要である.研究のマネジメントはボスの仕事ではあるが,若手研究者のうちから研究のアウトソーシングを考えることは自身の研究の独自性,専門性を見つめ直すことになり,いずれ研究をマネジメントする立場になった時にも役立つのではないだろうか.

日本全体という大きな規模で考えると,専門性の高い研究は専門家に委託する方が効率的である.今後は研究費の運用なども柔軟になり,研究のアウトソーシングはより一般的になっていくだろう.そして,若手研究者が自分の専門性や技術を活かした仕事をするための1つの選択肢としてアウトソーシング受託という働き方がより身近なものになってくると思われる.また,研究成果の社会還元やビジネス化が求められる現状においては,自分の研究手法を活かしたアウトソーシング・ビジネスを常に意識しておいた方がよいかもしれない.

今回,研究のアウトソーシングをテーマとしたシンポジウムを企画・運営した経験は大変刺激になり,自分の研究を見つめ直すよい機会になった.本稿の読者の方々も,自分自身の研究のアウトソーシングを考えることで,ご自身の研究テーマやキャリアパスについて見つめ直してみてはいかがだろうか.

上窪裕二(順天堂大学・医学部/日本生理学会若手の会・運営委員会

※実験医学2013年9月号より転載