[Opinion―研究の現場から]

本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第41回 研究者同士の得意分野を生かし合い,テーマを育てる経験

「実験医学2013年11月号掲載」

現在,私は博士後期課程3年生で,今までさまざまな失敗・回り道をしながら,ようやく研究成果を残せるようになってきた途上の身です.本稿では,自分の経験から得られた,価値観が異なる研究者同士とうまく協力して,研究成果をまとめる際の心がけをご紹介します.

私は学部生のときは,薬学部で界面・コロイド科学を専攻し,界面活性剤でゲル基剤を開発する製剤学の研究を進めていました.テーマは非常におもしろかったのですが,次第に物理化学だけでは,薬物自体の性質を知ることはできても,実際の薬理作用を科学することはできないことにもどかしさを感じはじめ,専門分野の異なる現在の研究室に入りました.

新しい研究室では,膜タンパク質の機能発現に伴う構造変化を調べる研究をはじめました.研究が進むにつれ,膜タンパク質の機能には,水分子の吸着(水和)が深く関与していることがわかり,高分子に結合する水分子が,薬理作用にも深く関与していることを知りました.「水和は薬学にも役立つ研究テーマだ」と感じた私は,膜タンパク質の機能における水和の役割を熱力学的手法で明らかにするテーマで学位を取りたいと指導教官に相談しました.しかし,研究室が掲げるテーマは膜タンパク質の機能自体に主軸があり,水和に詳しい人材もいなかったため.既存のリソースでは私のテーマを掘り下げるのは難しいことがわかりました.

そこで,私は独力で自分の研究テーマを立ち上げて,機能解明につなげることをめざしました.水和の研究を独学し,さまざまな専門家と議論しながら,水分子の挙動を調べる新しい実験手法を考え実行に移しました.しかし,私の扱う膜タンパク質は,それまでの水和の研究対象に比べはるかに複雑で,既存の理論を応用することは難しいのが現実でした.先生からは「君にも私にも,今の科学にさえ,この研究対象を水和で説明できる知恵はない」と指摘され,深い絶望感を味わうことになりました.

一度は意気消沈したものの,気をとり直して「膜タンパク質の機能を調べたい」という原点に戻り,研究テーマについて先生と再度相談しました.その結果,機能に必要なアミノ酸残基が明らかになっているが,その理由が不明であることを知り,その物理的要因を調べるというテーマで研究を進めることになりました.このテーマならば水和とも関連し,先生の関心ともマッチしたので,たくさんのアドバイスをいただけました.そのおかげで,研究の結論をある程度予測でき,何を実験すればいいか把握し,実験上の克服する問題を絞りこむことができたのです.

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自分の専門を変えて苦闘したこの経験を通してわかったことは,他の専門家と共同した研究は,

①自分がやりたい研究の具体的なイメージと目標を常に描きつつ,②それを相手に理解(共有)してもらい,③相手のやりたい研究と得意分野を理解しながらテーマを設定して,はじめて達成できるものだということでした.そのためにも,自身の知識を磨くだけでなく,相手との対話を通じて知識や興味,方向性を共有する力を育てることが必要だと思います.

最後に生物物理若手の会の会長として,この会の紹介を簡単にさせていただきます.生物物理若手の会は,生物に関する異分野の研究者同士が活発に交流・意見交換することで,広い視野をもった研究者になることを目指しています(http://bpwakate.net/).本稿で述べたような,他の専門家との共同研究をトレーニングする場としても最適です.研究室の枠を超えた交流・相互理解・議論によって,あなたの研究をさらに広げる可能性を提供できる場を用意しています.

柴崎宏介(生物物理若手の会/北海道大学大学院生命科学院)

※実験医学2013年11月号より転載