第64回 文献紹介を有効に活用するために [Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第64回 文献紹介を有効に活用するために

「実験医学2015年10月号掲載」

学生が所属する研究室の多くでは,セミナー形式の文献紹介が定期的に行われている.よくある形式は持ち回りの担当者が論文を1本選び内容を紹介するというもので,その開催頻度や発表方法は研究室ごとに異なる.ただし,学生が「当番が面倒」「やる意味があるのか?」といった負の印象や疑問を抱くことも少なくないようだ.一方で,学生が積極的に参加する充実した会も存在すると聞く.文献紹介をより有意義なものにするためには,どうすればよいのだろうか.

まず,異なる研究室における文献紹介の様子を知るために,生化学若い研究者の会に所属する学生を中心にアンケートを行った.その結果,30ほどの研究室に関する回答が得られた.多くの場合,週に1~2回の頻度で文献紹介が開催され,一人あたり半期に1~2回の発表を行い,その準備に1週間前後を要しているようであった.また,「学生からの質問やコメント」に問題意識をもつという意見が比較的多く寄せられた.このことは,学生の参加意欲が低いことや,的確な質問をするための力が十分に養われていないことに対する危惧を反映しているのかもしれない.思い当たる節がある方は,文献紹介が学生の能力向上の場として機能しているかどうかを再考してみた方がよいだろう.

文献紹介の時間を有効に使うための「工夫」として,ここでは筆者らが見聞きした興味深い取り組みを紹介したい.まずは,若い学生から順に,ひとり1つ以上質問をするルールを設ける方法だ.発表を聞くための姿勢が新人の頃から養われるとともに,先輩や先生の後では質問しにくいと感じる若手から斬新な意見や鋭い質問が飛び出し,議論が活気づくことも期待できる.また,中堅スタッフが座長となってテーマを設定し,数名の学生が選んだ関連文献をそれぞれの担当回に紹介する方法もある.座長役が内容に関する事前確認と簡単な指導を行うことで,効率よく読解力を養うことができる.その他に,Nature,Cell,Science誌以外の論文誌を紹介するというルールを設けている研究室もある.その裏には,将来の研究課題に繋がる論文を見つけ出す力を養うというポリシーがあるそうだ.さらに,学生へのお手本として,教員にも発表を課している研究室もあるようだ.

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「バイオ研究はじめの一歩」

さて,自身が所属する研究室の文献紹介がどのような目的で行われているかを考えたことはあるだろうか.重視される項目として「学生の教育」や「研究のための情報収集」などが考えられる.前者の場合,論文構成や研究戦略の理解,わかりやすい発表をするための訓練などが狙いとなるだろう.後者の場合,最新知見の共有や,新しい研究テーマのきっかけ探しが中心となるようだ.このような明確な目的が参加者内で共有されることで,参加者が身に付けるべき力を意識して文献紹介に臨むことが期待される.逆に,目的がはっきりとせず文献紹介が漫然と実施されるのみであれば,参加者も文献紹介の意義を見失ってしまうのではないだろうか.内容をただ紹介するのではなく,主催目的を踏まえたアウトプットを心がけ,周囲にもそれを促すことが,活気ある文献紹介を実現するために学生個人がすぐにはじめられることだろう.そして,現在の方法が力を伸ばすために適切でないと感じるならば,目的に応じた工夫を取り入れることを提案してみるのもよいかもしれない.

文献紹介の時間は,研究活動に必要なさまざまな力を伸ばすためのチャンスに溢れている.この時間を有効に活用するために,まず自分自身の取り組み方や,個々の研究室の目的を振り返ってみてはどうだろうか.文献紹介をうまく利用することで,今まで意識してこなかったような力を伸ばすことができるという視点が,自身の成長につながると私たちは確信している.

有澤琴子,豊田 優(生化学若い研究者の会キュベット委員会)

※実験医学2015年10月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2015年10月号 Vol.33 No.16
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