第67回 博士の就職活動「未」体験記 [Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第67回 博士の就職活動「未」体験記

「実験医学2016年1月号掲載」

さて…就活どうしよう?…就職活動開始を約半年後に控えた博士課程2年の9月,筆者は就職活動に対して漠然とした不安・悩みを抱えていた.就職活動と研究は両立できるだろうか? 就職活動はいつ終えられるのだろうか? 就職活動後に研究をまとめて学位審査に間にあうのだろうか? 博士卒の学生は企業に必要とされているのだろうか? このように不安を感じているのは自分だけなのだろうか?

筆者が博士課程の学生として最も気がかりな点は,「内定の獲得」と「学位の取得」をどう両立するかということである.就職活動期間中どの程度研究に力を注げるか,また,就職活動はいつまでに終えられるか,現時点では予想できない.さらに,博士号を取得するためには多くの場合,査読論文を執筆する必要がある.したがって,博士課程の学生が就職活動に安心して取り組むためには,特に早い時期から計画を立て,就職活動をはじめる前に査読論文の執筆や学位審査への道筋が見える状態にしておきたい.

さらに,博士課程の学生が少数派であるがゆえに,似た境遇の人から経験談を聞く機会が少ないという悩みもあった.しかし幸い,われわれが所属している「生化学若い研究者の会」には,さまざまな研究室の博士課程の学生が在籍しており,博士号を取得してから民間企業に勤めている先輩も多くいる.また,各支部の活動や毎年開催される「生命科学夏の学校」では,博士課程学生のキャリアパスについて考えるセミナーを積極的に行っている.そこで,先輩方に話を聞いてみると,博士号取得者の就職における共通点が見えてきた.例えば,就職活動を経験し,現在民間企業で働いている実感として「学生のときの研究内容を企業でそのまま仕事にするのは難しい.しかし,博士課程で会得した豊富な専門知識や実験手法一つひとつが,企業に自分を売り込む材料になった」,「博士課程で培われた考える力やマネジメント力は仕事のうえで役に立っているし,企業もそれを期待している」という声が多く聞かれた.また,就職活動の心構えに関して「博士号をなぜとりたいのか,民間企業でそれをどう生かしたいのか考えてほしい.それが就職活動の大事な指針になる」という助言をいただいた.

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「博士号を取る時に考えること 取った後できること」

そこでわれわれは,博士課程への進学を決めた動機を思い返してみた.筆者の1人は,研究者として世界で活躍するために,研究能力を鍛錬する場である博士課程を修了して博士号を取得しておきたいと考えて,博士課程に進学した.そして現在は,グローバルに事業を展開している企業への就職を志望している.博士号を重視する海外の企業と仕事をする際にも,博士号取得者の矜持をもって臨みたいと考えている.一方,もう1人の筆者は,学びの環境としてアカデミアに価値を見出して,博士課程に進学した.意識的にさまざまな分野を広く学んでいくうちに,研究と産業を結び付けられる理想の分野が見つかった.そして現在は,自分が成し遂げたいことについて,ある企業に希望を見出している.そもそもなぜわれわれが博士課程に在籍しているのか振り返ってみると,自分が博士号を取得してから社会に出る意義を再認識することができ,自分なりの指針が定まってきた.そして,就職活動や自分の将来へのモチベーションが向上した.

われわれはいずれはじまる就職活動に対して漠然とした不安を抱いていた.しかし,不安について掘り下げて考え,また先輩方からの話を聞くうちに,考えが整理されてやるべきことが見えてきた.大切なことは自分にとっての博士号の意義を深く考えるということ.来たる就職活動に向けて,「生化学若い研究者の会」などの縦と横のつながりを情報収集の助けとして,博士課程学生としての強みを売り込んでいきたい.さて…いざ就活へ!

野崎智裕,猪川 亮(生化学若い研究者の会キュベット委員会)

※実験医学2016年1月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2016年1月号 Vol.34 No.1
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藤堂具紀/企画
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