[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第118回 ハゲタカジャーナル投稿経験者の主張

「実験医学2020年4月号掲載」

掲載料を得ることのみを目的とし,査読を適切に行わない捕食学術誌(通称ハゲタカジャーナル)への論文掲載数が大学別にランキングで掲載される不名誉な記事が世に出た.これに対する世間の⾵当たりは強い.しかし,必死に出した成果をわざわざ粗悪と揶揄される雑誌に投稿を望む⼈はいるのだろうか? 投稿者はなぜハゲタカジャーナル投稿に至ったのか,その経緯を知るため,ハゲタカジャーナル投稿者に取材協力を打診したところ,匿名を条件に取材を受けてくれた.

Q1 ハゲタカジャーナルへ投稿した理由は?

A1 誤解しないでもらいたいのだが,はじめからハゲタカジャーナルと認識して投稿したわけではない.掲載後に,その雑誌がBeall’s listに加わってしまったのだ.最初から粗悪だったのか,雑誌の方針が変わって粗悪になったのかは不明.当時,投稿した論文は別の雑誌で査読を受け,追加データを要求されていた.しかし,短期で業績が必要で,追加データを出すだけの時間も予算もない状況だった.しかたなく,早期に審査される別の雑誌を探した結果,この雑誌に行きついてしまった.

Q2 ハゲタカジャーナルに論文が掲載されたことで,利害はあったか?

A2 研究費の申請前に受理されたので,業績欄に論文を増やすことができた.そのおかげかは知らないが,研究費に採択された.インパクトの低い結果をせっかくだから論文にまとめた程度で,自分の研究を代表する論文ではないからそれ以外に実利はない.実害も今のところはない.しかし,「ハゲタカジャーナルに投稿した者」として,信憑性のない人と思われるのではないかという精神的な不安はある.それが一番の害かもしれない.

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Q3 ハゲタカジャーナルへの投稿を控えるべきか? 控えるにはどうすればよいか?

A3 控えることができるのなら,それに越したことはない.他方,多額の予算を使って出た成果を形にしないことの方がよくないのではないか? とも思う.今の大半の雑誌には,インパクトと社会的意義を兼ねた成果ばかりが掲載される.しかし,研究の過程では必ずしもインパクトがあり,意義を即座に見出せる成果だけが生み出されるわけではない.こうした成果を世に送り出す受け皿が現時点で十分整ってない以上,控えろと言われても説得力を感じないし,控えるべきと自分が言うこともできない.自衛する方法の一つは,論文の保管先が明記されている雑誌へ投稿することだ.その雑誌の運営会社が倒産しても論文を保管する機関と提携を結んでいる雑誌は信頼性が高いと言える.例えばElsevier社はオランダ国立図書館と提携している.

◆ ◆ ◆

今回の取材を通じて,研究は,いかに研究者と雑誌運営双方の良心によって支えられているかがわかった.自分には関係ないと思っていても,雑誌の運営しだいでは巻き込まれ,掲載された論文が消滅する可能性があることに少なからず恐怖を覚えた.ハゲタカジャーナル最大の問題の一つは,捏造や不正を含む論文が査読というお墨付きを得てしまい,学術雑誌そのものが科学の真理を歪める温床になりかねないことである.しかし,もとをただせば,捏造等をしてでも論文を投稿してしまう研究者,そのような思いを抱かせてしまう環境こそが真の悪である.つまり,研究者の良心が保たれる環境を築くことこそ,悪質化が進むハゲタカジャーナル問題を根本的に解決する手段であると感じる.最後に,彼はこのようにも主張していた.「大切なのは雑誌に関係なく,その論文に記載されている内容の真偽を見抜けるようにすることである.一流誌であっても,捏造や不正,そこまでいかなくとも再現のとれない研究など山ほどあるのだから」.

※ Beall’s list:コロラド大学元准教授兼司書のBeallが作った捕食学術誌リスト.リストは不正確であるとの批判により,2017年に閉鎖した.

小野田淳人,青木聡樹(生化学若い研究者の会キュベット委員会)

※実験医学2020年4月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2020年4月号 Vol.38 No.6
DOHaD—われわれの健康と疾患リスクは胎生期・発達期の環境でどこまで決まるのか?

小川佳宏,伊東宏晃/企画
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