[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第145回 クラウドファンディングに挑戦!大学院生の研究費獲得ノウハウ

「実験医学2022年7月号掲載」

大学院生から応募できる研究助成は少なく,研究費が獲得できないと諦めていないだろうか? 弊会は以前,日本初の学術系クラウドファンディング(CF)サイト「academist」を紹介した1).単純比較はできないがacademistではCFの成功率が85%を超え2),学振DCの採択率20%や3),科研費の採択率28%4)を大きく上回る.一方,CFは難しそうという不安の声は多い.そこでわれわれはその不安を払拭するために,2020年12月に支援総額203.6万円(academistでの大学院生最高額)5)を達成した長谷川尚弘氏(当時,北大D1)に,CFの魅力と成功の秘訣を取材した.

長谷川氏はホヤの分類学を専門としている.博士課程ではサンパウロ大学でトランスクリプトーム解析を学ぶ予定だったが,COVID -19により留学の機会を失い,修士課程と同じ北大の研究室で研究を続けることになった.そのときにはすでに国内の助成金申請も終了していた.途方に暮れていたところ,知り合いからacademistを紹介され,CF挑戦を迷わず決めた.日頃から研究に打ち込み,指導教員と意思疎通を図っていたこともあり,指導教員からもCFを快諾してもらえたと言う.

CF挑戦にあたり,返礼品と適切な価格設定に悩む人も多いだろう.しかし意外にも長谷川氏は,「CFのHPを見てくれる人は,支援したいから支援する.だから返礼品は何でもよい.」と言う.ただし,価格設定には強くこだわり,研究報告1,000円,学会発表謝辞5,000円,群体ホヤ標本1万円,そして,最高額の新種ホヤ命名権は50万円とした.ホヤの命名権を高く設定したのは,学術的価値の高い新種の命名権が,CFで安く手に入るという風潮を避けるためだ.また, 2番目の価格を5,000円としたのは,たとえ支援者を多く集められなくても,目標の65万円に到達できるようにするためだ.この価格設定は,長谷川氏がホヤ業者のCFに出資した際,「本当に支援したければ,学生の今は5,000円,社会人だったら1万円払えた」と感じた経験から来るそうだ.支援者側の視点を得るために,まずは自ら支援してみることを強くお勧めしたい.

[オススメ]申請書の書き方を中心に,応募戦略,採択・不採択後の対応などのノウハウを解説.

「科研費獲得の方法とコツ 改訂第8版」

CF成功には広報も重要だが,お金をせびっていると思われないか不安に感じる人もいるだろう.長谷川氏の場合は,多くの人にCFへの挑戦を知ってもらうために,「拡散/応援だけでもお願いします」と表現し,Twitterで毎日正午と18時頃に情報を発信した.ツイートが拡散されるにつれ,YouTube「ゆるふわ生物学チャンネル」,「academist BAR」,CBCラジオからも出演依頼が届き,さらなる支援の増加につながった.このようにCF成功には広報も重要だと言える.取材の最後に長谷川氏は,「CF経験を今の研究に活かし,将来は研究者として世界で3,000種(日本で300種)いるホヤの図鑑を作り,ホヤの進化の謎を解明したい」と語った.

CFには自分のタイミングで始められる魅力もある.さらに,助成金では購入が難しい場合があるデータ解析用のPCも購入できる使途の柔軟さもメリットだ.academistは世界最大の学術系CFサイト「Experiment」と近年協定を結んでいることも踏まえると,今後ますますCFが発展し,若手研究者の強い味方となるだろう.本稿がCFでの研究費獲得に挑戦する大学院生の参考になれば幸いだ.

謝辞 本稿は長谷川尚弘氏(北海道大学理学院)のご厚意により,執筆することができました.お忙しい中,惜しみなくCFに挑戦した経験やノウハウを教えてくださったこと,厚く御礼を申し上げます.

文献

  1. 池田明加,川出野絵:実験医学,35:1399,2017
  2. academist「研究者の方へ」
  3. 日本学術振興会「特別研究員採用状況について〔令和3年度(2021年度)〕」
  4. 日本学術振興会「Ⅱ.科研費の主な研究種目における応募件数、採択件数、採択率の推移」
  5. academists「長谷川尚弘(動かない動物「ホヤ」、その生存戦略に迫る!)」

石坂優人,青木聡樹(生化学若い研究者の会,キュベット委員会)

※実験医学2022年7月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2022年7月号 2022年7月号 Vol.40 No.11
睡眠医学
眠りの分子・神経基盤を解明し、睡眠異常へ介入する

上田泰己/企画
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