[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第153回 大学院研究科広報の舞台裏

「実験医学2023年3月号掲載」

大学院研究科のURA(University Research Administrator)・広報を担当して早8年が経過した.意外と長く続いてきたな,と本人も驚いているところである.思い起こせば博士学位取得の際に,タイミングよく博士取得者を対象とした研究広報担当のURAの公募があり,このポジションに就いた.着任当時は今よりもURAや広報担当者を置いている部署は全国的にも少なく,研究科内の人々からは何をする人なんだろう?と思われていたようである.そのときは本人もよくわかっていないまま,とりあえず研究科広報の全般と研究科の評価を主に担当しているとお伝えしていた.さて,そんな状態から8年が経過し,現在ではアウトリーチや研究推進を担う,教員と事務職員に次ぐ第三の職種としての認知度が高くなってきていると思う.研究広報を担う末端の一例として,本稿ではこれまでの経験を踏まえ,何をして,何を考えて広報活動に従事しているかを紹介する.

さて,研究科の広報担当は,自然に最新の研究成果をいち早く目にする機会が多くなるが,個人的にはそれがこの仕事の中での楽しいことの一つであると思っている.しかしながら,いざ広報するとなると,第三者に科学を面白い・楽しいと思ってもらうため,また研究成果を齟齬なく正しく理解してもらうためにはどのようにするのがよいのか,その中でも対象を高校生にするのか,大学生とするのか,または一般市民向けにするのか,といったことを踏まえて活動を行わなければならない.これが一見簡単なようでいて,難しい.一番基本であり重要なことではあるが,科学を「わかりやすく伝える」と「正しく伝える」の両立が一番悩むところであり,はっきりとした答えがない.毎回試行錯誤しながらではあるが,よりよい形で発出するために研究者,広報担当者,事務,その他関係者で協議して進めていくことが必要となる.そのため相互理解に努めているが,博士をもっていることによって研究者側の気持ちがある程度わかり,研究者側から見ても広報人材が博士をもっていることが安心材料の一つとなっているように感じる.また,広報担当者は事務方とのやりとりも担うことで両方の気持ちをくむことが可能となる.業務を円滑にするための潤滑油のような存在になるのが理想と自分なりには考えている.

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業務の種類としては,研究成果のプレスリリースの発出のための調整・手続きや,HPの更新,研究科の広報誌の作成,イベントの運営などである.これらは8年間一貫して行っており,いわゆる大学などの機関が行う広報活動としてイメージする業務であると思う.加えて,近年はSNSの発展が著しく,研究科のSNSアカウントの開設・管理など業務範囲にも少しずつ変化が生じてきた.広報媒体の進化・変化にともない,各媒体の特性に合わせた効果的な広報の方法のあり方を日々模索しているが,手探りとなるためなかなか難しいと感じている.近年は大学単位や研究者個人でもクラウドファンディングなど,研究者と一般市民との距離がより近づくことが重要となる取り組みに挑戦する例が増え,その分ますます研究広報の重要性が増すであろう.今後も新たな広報媒体の出現に合わせて,学んで適応していく柔軟さが求められることが予想される.これからも広報にはっきりとした正解といったものは生まれないと思うが,「わかりやすく」と「正しく」を両立できるように伝えることを大事にしていきたい.

高橋さやか(東北大学大学院生命科学研究科)

※実験医学2023年3月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2023年3月号 Vol.41 No.4
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熊ノ郷 淳/企画
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