プロフェッショナル根性論

第1回 強みとは

自分の強みにこだわる仕事術(2008年1月号)のOnline Supplement Material

今回のOnline supplement materialでは,第1回「自分の強みにこだわる仕事術」でご紹介いただいた,「強み」の概念,見つけ方について,さらなる詳細をご説明いただきます.

「強み」とは仕事上のポジティブで生産的な習慣的行動であり,「強み」を生かした仕事では人は強くなったとポジティブな感覚を体感する

バッキンガムらによると「強み」とは「一貫してかつ高い完成度(consistent,near-perfect performance)で(ある課題を)遂行できる活動・能力」と定義される.SBA戦略における「強み」とは一般の「長所」や「得意」という概念を,ビジネスやキャリアデベロップメントの観点から再定義したものと考えてもらいたい.「強み」の重要な特徴とは「強み」を生かして仕事をしているときに人は「強くなった」という4つの感覚(SIGN:Success,Instinct,Growth,Need)を実感することである.

つまり:「強み」を生かした活動においては

  1. Achiever(達成欲)
  2. 効率的に遂行できるいう成功体験(=Success)があるので
  3. その活動をしたいという潜在的な欲求(=Instinct)に駆られ
  4. その活動の最中には,充実感(=Growth*)を感じ
  5. 遂行後には,このうえない達成感(=Need*)を体感する.
    (*バッキンガムによる解釈)

したがって,「強み」とはいわゆる「仕事上のポジティブで生産的な習慣的行動」「仕事上の生産的な“はまっている”こと」に近い.「強み」を生かした活動・行為はこの4つのポジティブな感覚(SIGN)を生みだし,ポジティブ・フィードバックがさらにパフォーマンス(生産性)を高める.「強み」を生かした仕事のやり方は,パフォーマンスと自己評価の双方を高めるので,SBA戦略をうまく実践すれば,ストロング・ライフを送ることができるのである.

「強み」の核となるのは習慣的に繰り返す思考・行動パターン(=タレント)であり,このパターンは青年期までにほぼ確定する

neurocircuit

「強み」は「タレント」「スキル」「ナレッジ」の3つの要素で形成されるが,「強み」の形成に最大の影響を与えるものがタレントである.ここでいうタレントとは「人が習慣的に自然に繰り返す思考パターンや行動パターン」であり,青年期までに各個人にユニークなパターンがほぼ完成し,以後変化しにくいとされる. バッキンガムの比喩的な解説によると,脳の神経回路形成の大部分は青年期までに完成してしまい,結果としてできた回路の細い部分と回路の太い部分はその後はトレーニングや学習ではほとんど変わらない(神経科学的にいえばそんなことはないかもしれないが,ビジネスブック的な比喩としてとらえて欲しい).回路の太い部分を経由する活動がタレント,つまり自然に繰り返される優位な思考・行動パターンを形成する.したがって,タレントとは人がもつユニークな神経回路に根ざした特性であり,成人後は神経回路も変化しにくいので,タレントも変化しにくい.

バッキンガムはタレントを34のカテゴリーに分類し,180の質問に対する回答から各個人の上位5つの優位なタレントを同定するStrengthsFinder®(下記)という心理テストを開発した.例えば34のタレントの1つ「Achiever(達成欲)」とは,何かを成し遂げたいという恒常的な欲求を感じる思考・行動パターン,「Learner(学習欲)」とはスキルを習得することで活気づけられ自信が強まる思考・行動パターンである.また「Harmony(調和性)」とは衝突や摩擦から得るものはないという考え,争いを最小限にしようとする思考・行動パターンであり,一方その対極のパターンが「Competition(競争性)」である.StrengthsFinder®で同定された優位なタレントは時間を経ても大きくは変化しにくい. 優位なタレントはその人の「強み」を形成する核となる.

今すでにある習慣的な思考・行動パターン(=タレント)の上にできた「強み」を生かすことに,仕事のパフォーマンスを上げる最大の可能性がある

「強み」はこの習慣的に繰り返す思考・行動パターン(=タレント)の上に,スキルとナレッジを学ぶことにより形成されていく.タレントのない部分にはいくらスキルとナレッジを積み重ねても「強み」をつくり上げることは非常に難しい.強みの源泉であるユニークな思考・行動パターン(=タレント)をトレーニングで変化させることは非常に困難であるので,トレーニングと努力だけで強みをつくり上げることは難しい.

一般の通念では「人は成長につれて,パーソナリティーは変化していく」と考えるが,SBA戦略では「人は成長につれて,現在の自分らしさが増強されていく」と考える.また,一般の通念では「人は苦手分野に最大の成長の可能性がある」と考えるが,SBA戦略では「人は強みのある分野に最大の成長の可能性がある」と考える.もちろん人には無限の「可能性」があるが,タレントの可塑性は驚くほど低い.新しく強みをつくり出すことは驚くほど効率が低い.今あるタレントを利用する,今ある強みをさらに磨くというSBA戦略が,パフォーマンスを最大限にする方法であるのだ.

(参考)StrengthsFinder®

StrengthsFinder®はGallup Organizationが提供するウェブベースのアセスメントサービス(有料)で,Marcus Buckingham & Donald O. Clifton著「Now, discover your Strengths:(邦題)さあ,才能(じぶん)に目覚めよう―あなたの5つの強みを見出し,活かす」で詳しく解説されている.StrengthsFinder®はPositive Psychologyのコンセプトをもとに考案された正常な(病的でないという意味)なパーソナリティーを解析するアセスメントである.StrengthsFinder®はタレント(=人が自然に繰り返す思考パターンや行動パターンを)34に分類し,180の質問に答えることで,上位5つの優位なタレントを同定する.StrengthsFinder®で同定されたタレントは「強み」の源泉となるものである.

whichwaytogo

34のタレント

  1. Achiever(達成欲)
  2. Futuristic(未来志向)
  3. Activator(活発性)
  4. Harmony(調和性)
  5. Adaptability(適応性)
  6. Ideation(着想)
  7. Analytical(分析思考)
  8. Includer(包含)
  9. Arranger(アレンジ能力)
  10. Individualization(個別化)
  11. Belief(信念)
  12. Input(収集心)
  13. Command(指令性)
  14. Intellection(内省)
  15. Communication(コミュニケーション力)
  16. Learner (学習欲)
  17. Competition(競争性)
  18. Maximizer (最上志向)
  19. Connectedness(運命思考)
  20. Positivity(ポジティブ)
  21. Consistency(公平性)
  22. Relator(親密性)
  23. Context(原点思考)
  24. Responsibility(責任感)
  25. Deliberative(慎重さ)
  26. Restorative(回復思考)
  27. Developer(成長促進)
  28. Self-Assurance(自己確信)
  29. Discipline(規律性)
  30. Significance (自我)
  31. Empathy(共感性)
  32. Solategic(戦略性)
  33. Focus(目的思考)
  34. Woo(社交性)

参考までにStrengthsFinder®による著者の5つの優位なタレントは

  1. Input(収集心)
  2. Harmony(調和性)
  3. Significance(自我)
  4. Maximizer(最上志向)
  5. Learner(学習欲)

であった.

著者プロフィール

島岡 要(Motomu Shimaoka)
大阪大学卒業後10年余り麻酔・集中治療部医師として敗血症の治療に従事.Harvard大学への留学を期に,非常に迷った末に臨床医より基礎研究者に転身.Mid-life Crisisと厄年の影響をうけて,Harvard Extension Schoolで研究者のキャリアパスについて学ぶ.現在はPIとしてNIHよりグラントを得て独立したラボを運営する.専門は細胞接着と炎症.
ブログ:to www「ハーバード大学医学部留学・独立日記」A Roadmap to Professional Scientist
本連載が単行本になりました!
加筆・修正をしてますます洗練された内容にパワーアップ!タイトルも新しく『やるべきことが見えてくる 研究者の仕事術』に生まれ変わりました!
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