統計の落とし穴と蜘蛛の糸

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みなか先生といっしょに統計学の王国を歩いてみよう

「実験医学」に2014年2月から開始した連載「統計の落とし穴と蜘蛛の糸(三中信宏)」が単行本化いたします.人間が進化の過程で得てきた「認知的性向」は統計学の本質ともいえるものです.単なる計算方法や理論ではなく,「ものの考え方」としての統計的思考について,分野の歴史から,科学哲学の視点も含めつつご紹介いただきます.実験医学online上では引き続き第1回をご覧いただけますのでぜひご一読ください.(編集部)

連載のはじめに

私の職務上の表看板は「生物統計学」です.農林水産省系の独立行政法人農業環境技術研究所を本務地とし,兼任している東京大学農学部にも研究室をもっています.そういうポジションにいれば,ごく日常的に,農学系あるいは生物科学系の研究員や学部生・大学院生に統計学を教える機会が多くなり,また統計分析に関する質問を受けるコンサルタント業務も年々増えてきました.仕事や研究を進めるうえで統計分析とかデータ解析を必要とする人たちが増えてきた証でしょう.

農学や生物科学を専攻する彼らは十把一絡げにくくってしまえば “理系” です.しかし,私が顔をいつも合わせる彼らは必ずしも数学が得意であるとはかぎりません.それどころか,講義や研修で教壇に立つ私に向かって受講生から投げられる多くの質問の背後には,「数学がわからないので統計が理解できない」という思い込み(引け目?)が強く感じ取れます.

実際,農学や生物学を学んできた彼らは,大学・大学院でのカリキュラムにもよりますが,生物統計学に関する講義を学ぶ機会がないという話をよく耳にします.私が生物 統計学の講義を担当するときには必ず「統計学概論」からはじめるのは,統計学に関する事前知識のばらつきが大きいことを長年の経験で知っているからにほかなりません.

そもそも生物統計学にとって「数学」はいかなる意味をもつのでしょうか.もちろん,いわゆる数理統計学のような理論的な研究領域の中ではそれは愚問にすぎません.他方,農学や生命科学分野の研究者にとっては,統計学とは,あるいはデータ解析とは数学や数式だけではけっしてすむことではなく,もっと深い理解が実は必要なのではないかという疑念を私自身は長年にわたって感じてきました.

本連載では,統計学の数理や理論ではなく,「ものの考え方」としての統計的思考の本質について,お話ししたいと思います.

コンテンツ

第1回 データ解析の第一歩は計算ではない(2014年2月号掲載) 2014年11月11日更新
第2回 データの位置とばらつきを可視化しよう(2014年4月号掲載)  
第3回 データのふるまいをモデル化する(2014年6月号掲載)  
第4回 パラメトリック統計学への登り道① ─ばらつきを数値化する(2014年8月号掲載)  
第5回 パラメトリック統計学への登り道② ―自由度とは何か(2014年9月号掲載)  
第6回 確率変数と確率分布をもって山門をくぐる(2014年10月号掲載)  
第7回 正規分布という王様が誕生する(2014年11月号掲載)  
第8回 ピアソンが築いたパラメトリック統計学の礎石(2014年12月号掲載)  
第9回 秘宝:確率分布曼荼羅の発見!(2015年1月号掲載)  
第10回 実験計画はお早めに―完全無作為化法(2015年2月号掲載)  
第11回 正規分布を踏まえたパラメトリック統計学の降臨(2015年3月号掲載)  
第12回 統計データ解析の地上世界と天空世界 ―連載の総括として(2015年4月号掲載)