テツヤ、留学生活はどうだい。

Kyota Ko,Simon Gillett(東京工業大学英語コミュニケーションプログラム 講師/ベルリッツ・ジャパン)

本コンテンツは,実験医学同名コーナーからの転載,2014年11月に発行された単行本「理系英会話アクティブラーニング」シリーズ(発表・懇親会・ラボツアー編スピーチ・議論・座長編)からのスピンアウトとなります.イギリス留学中のテツヤが実験医学onlineにも登場!

第3回 「No」とは言わない文化と「No」しか言わない文化

こんにちは,テツヤです.

うちの研究室はなかなかのインターナショナルぶりで,学生も合わせたら9カ国くらいでしょうか,多様なバックグラウンドの人が集まっています.知的好奇心旺盛な人ばかりで,研究の合間の雑談はスポーツから映画,哲学や経済のことまで多岐にわたっていて話についていくのはたいへん.でも楽しい!

よく話すのがイギリス人のHugh(ヒュー)とアメリカ人のAngelina(略してアンジー).僕たちがしょっちゅう雑談をするテーマは「異文化」です.ディベート好きな彼らと話すと雑談というより議論みたいになるので気づいたら30分話してた,なんてことも.

ステレオタイプは本当?

さて,ついこのまえお題にあがったのが民族に対するステレオタイプ.さまざまな国の人が乗った豪華客船が沈みそうになったとき,どう説得すれば乗客を海に飛び込ませられるかという有名なジョークがありますよね.

アメリカ人は「今飛び込めばヒーローになれます」と言われれば飛び込む.イギリス人には「こんな時紳士なら飛び込むべきです」と言われれば飛び込む.日本人はというと,「もう皆さん飛び込まれていますよ」と言われれば飛び込む.

ヒューとアンジーに,このステレオタイプについてどう思うか聞かれました.あまり考えたことはなかったけれど,素直に思ったことを言いました.

It’s true that there aren’t many Japanese people who would want to be the one to say something to disrupt the whole group.
周りの意見と真逆のことを一人だけ言うのに抵抗がある日本人はたしかに多いんじゃないかな

「社会に適合する」の意味は国によってさまざま

そこから各国の人びとの社会でのふるまい方についての議論に発展しました.ディスカッションを通して3人がたどり着いた結論を考えてみると,「社会に適合する」ことがなにを意味するのかが国によって全く異なることがわかりました.

One of many になりたい日本人

日本人はご存知の通り,和を重んじる民族ですよね.学校で40人くらいのクラスに入ったとしたら,個人がなにがなんでも全体に合わせる,という風ではありませんでしたか?

例えば僕は,クラスメイトの話についていけるように特別興味がなくても流行りのテレビ番組やネット動画には目を通していました.学校行事の方針を話すとき,反対意見を述べる人は天邪鬼的な目でみられていたような.日本人の多くは,コミュニティーに合わせられない

a rare breed
普通じゃない人

になるのを恐れるんだと思います.きっと単一民族が住む島国としての歴史が多少関係しているんでしょうね.

この文化のよいところは,(たとえ表面的だとしても)団結力が生まれ,ものごとが滞りなく進む,ということでしょうか.

One of some になりたいアメリカ人

アメリカ人のアンジーによると,アメリカの学校では個人が全体に合わせることはないけれど,自分のアイデンティティーに近い人たち同士でグループが自然とできていたそうです.あまり褒められたものではないけれど,ランチタイムに食堂に行くと白人は白人のグループ,黒人は黒人のグループ,アジア人はアジア人のグループにわかれて座っていることが多い,とも言っていました.

アメリカはあまりに多様な背景の人たちで成り立っている国だから,そもそも全体が一丸となることは不可能なんだそうです.でも裏を返せば,自分が今いるコミュニティーと考えが合わなかったとしても,ちょっと探せば考えが合う別のコミュニティーが必ず存在するそうです.

日本では,学生がいじめにあうと不登校になるケースがよくありますよね.アンジーに言わせれば,

If school is so painful, why not change schools?
不登校になるくらいなら転校すればいいじゃない

だそうです.全体をまとめるのはすごくたいへんだけど,個人が無理に周りに合わせなくていいと考える文化といえるのではないでしょうか.

One and only になりたいイギリス人

イギリス人のヒューは僕たちの話に興味津々でした.自分の国の文化はまたさらに違った考え方だからです.

In England, not many people try to go with the crowd or look for a group they’d fit in.
イギリスでは全体に合わせたり、合うグループを探したりしようという考え方はあまりしないよ

「なんて言うか,1つのコミュニティーにはグラデーションのように意見が少しづつ違う人が一人ひとりいて,自分がそのなかのどのポジションにいるのかを考えるかな」ですって.

イギリス人はディベートや議論が大好きで,話し合いのなかで自分の意見と相手の意見の細かな違いを見つけ出そうとするんだそうです.「ロンドンのパブに行けば毎晩客同士が殴り合いのケンカをしているよ.でも殴り合った後友達になるケースも多いんだ.イギリス人は言論に限らず,争いをスポーツみたいに楽しむところがあるかもしれない」だそうな.

たしかに研究の方針についてイギリス人に意見を求めると,ほとんどの場合まずは批判されます.でもヒューによると,それは別にあなたが嫌いだからとかそういう理由ではなく,純粋に議論を楽しもうとしていたり,議論を通して互いの考えの相違点を見つけようとしているだけ.そう考えたら,イギリス人に話しかけたくなりませんか?

日本の文化も世界の文化の1つ

I agree. I think so too.
賛成です.私もそう思います.

日本人ならなにかと同意ばかりしてしまいがちですけど,それは日本人的な社会適合方法だったんですね.全体の和が最優先.

I tend to disagree. I don’t think so.
私は少し違う考えです.私はそうは思いません.

一方でイギリス人は反対意見ばかり.これもイギリス人としての社会適合方法なんですね.他との差別化が最優先.

I’m a New Yorker, so I think...
私はニューヨーカーだから,こう考えます.

アメリカ人は自分のアイデンティティーが最優先.

「No」とは言わないのが日本人なら,「No」しか言わないのがイギリス人.そう思うと,日本も世界のなかではなかなか“エッジの利いた (edgy)”文化をもっているように思えます.

僕も日本人らしく,今住んでいるイギリスの文化に合わせて議論好きになってもいいのかなとも思いますし,国際的な場では日本の「合わせる」文化をもち込んでもそれはそれでおもしろいのかなとも思います.

(( Listening! )) 議論を楽しむ時に使えるフレーズ

相手の文化についてこちらの解釈を確認して,もし間違っていたら失礼になるかもしれない... そんなときはこうやって前置きすると楽でした.

  • Correct me if I’m wrong, but are you saying British people like to argue?
    違ったら言ってください.つまりイギリス人は言い争うのが好きってことですか?
本連載の掲載された実験医学誌もぜひご一読ください!

実験医学 2015年10月号 Vol.33 No.16
絡み合い、伝え合うオルガネラたち
膜接触を介した新しい輸送メカニズムと疾患

多賀谷光男/企画
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