Kyota Ko,Simon Gillett(東京工業大学英語コミュニケーションプログラム 講師/ベルリッツ・ジャパン)
本コンテンツは,実験医学同名コーナーからの転載,2014年11月に発行された単行本「理系英会話アクティブラーニング」シリーズ(発表・懇親会・ラボツアー編,スピーチ・議論・座長編)からのスピンアウトとなります.イギリス留学中のテツヤが実験医学onlineにも登場!
久々にホームシックになったテツヤです.悪気はなかったのになにかを間違えて,それが原因で同僚にきついことを言われたりすると,決まってその晩は落ち込んだ流れでホームシックになります.イギリスに来る前は落ち込んだときどうやって気持ちを切り替えてたんだろう,って考えてみました.結論は「親」でした.どんなときも自分の味方でいてくれる人がいるって思うと,「だいじょうぶ」って気になれます.母親が作ったちょうどいい塩気の味噌汁を飲むときなんか特に.
ちょっと気になって,同僚のイギリス人に聞いてみました.「おふくろの味」 を英語でどう表現すればいいのかわからなくて手こずりましたけど.
Is there something like…how can I say this…sort of like the taste of your mother’s homemade food in England?
なんて言うんだろう…お母さんの手作りの味みたいなものはイギリスにはあるの?
「国際学会いってらっしゃい」P.52,58
なんとか伝わり,返ってきた答えは
I guess boiled egg and toast - that kind of “comfort food” reminds me of my mother. She often made them when I was sick.
ゆで卵とトーストかな―そういった “ホッとする食べ物” を食べると母親を思い出すよ.僕が風邪を引いたときによく作ってくれたんだ.
どうやらおふくろにしか作れない味という意味ではないものの,イギリスにもおふくろの味に近いものがあるみたいですね.
ところで comfort food といえば,comfort zone というフレーズを知っていますか? 日本語で言うなら「安全地帯」でしょうか.
ハリントン教授は僕によく
You’ve got to get out of your comfort zone.
安全地帯から出ていかないとダメだよ
と言います.今までと同じ研究の仕方に固執しないで,新しい手法を試してみなさい.今まで話したことがない人にどんどん話しかけなさい.そういった意味の言葉です.
そういえば,この研究所に入りたての頃は、ハリントン教授はよく褒めてくれました.
Coming all the way to England from your home country to study is itself a brave act of getting out of your mental comfort zone.
故郷を離れて遠くイギリスまで研究をしに来たことはまさに,日本という心の安全地帯を飛び出すというすごく勇気の要ることだよ
って.でも最近では
This lab is your new comfort zone. How do you plan to expand yourself further?
この研究所は君の新しい安全地帯だ.これからどうやって自分の世界を広げていくんだね?
ですって.きびしいなー,そりゃホームシックにもなりますよ,と言いたいところですが,教授は僕の将来のことを考えてそう言ってくれているということもよくわかります.
話を食べ物に戻すと,同僚には
Tetsuya has a vast comfort zone in terms of food.
テツヤは食べ物に関しては安全地帯が広大だよね
とからかわれます。みんなで街に遊びに行ったときに,日本では滅多にお目にかかれないレバノン料理屋を見つけました.メニューのなかには羊の腸や睾丸など,見慣れない羊料理が並ぶなか,僕以外のみんなは当たり障りないものばかりを注文していきます.僕は羊タンを頼んでみたら,「羊の舌だぞ!?」と驚かれました.「だって牛タンは美味しいよ」と返したら,「日本では牛の舌を食べるの!?」とさらに驚かれました.
ハッと思い,そこで首を振りながら言ってやりましたよ.
You’ve got to get out of your comfort zone, guys.
安全地帯から出ないとダメだよ,君たち
日本人はいろんな食材を美味しく食べますし,中国の人たちはもっとさまざまな食材を食べるとききます.アジアの人は欧米の人に比べて,食に関してははるかに異文化を理解することができると思います.おふくろの味の味噌汁からレバノンの羊タン料理まで,広い世界を食べ歩けることをちょっと誇りに思いました.
「国際学会いってらっしゃい」P.142