Kyota Ko,Simon Gillett(東京工業大学英語コミュニケーションプログラム 講師/ベルリッツ・ジャパン)
本コンテンツは,実験医学同名コーナーからの転載,2014年11月に発行された単行本「理系英会話アクティブラーニング」シリーズ(発表・懇親会・ラボツアー編,スピーチ・議論・座長編)からのスピンアウトとなります.イギリス留学中のテツヤが実験医学onlineにも登場!
テツヤです.「アメリカで交通事故を起こしてもI’m sorryと言ってはいけない」って,どこかで聞いたことありませんか? これから法廷で争うかもしれない相手に弱みを見せてはいけないから,自分の非を認めるような発言をすべきではないという考えなんでしょうね.僕は二言目には「すみません」と言うクセがあるので,海外へ行ったら不用意に謝ってはいけない!と気を張っていました.でも実際は,海外でもけっこう耳にします,I’m sorry.でも明らかに日本の「すみません」とは違う感覚で使われるのです!
イギリス人のハリントン教授はI’m sorryをよく使います.
I’m sorry but could you pass me that book lying over there?
すみませんがそこに置いてある本をとってくれますか?
これは日本でもよくあるI’m sorryの使い方.
I’m sorry but you need to redo this.
すみませんがこれはやり直しです
相手に非があるのに自分が謝るこのI’m sorryは,「すみません」というよりは「手間をかけさせて申しわけないけど」という意味ですね.これも日本ではよくあります.
でも昨日,ゼミ生候補との面談をハリントン教授がすっかり忘れてしまい,結局僕一人で応対しなくてはいけなかったときにはこう仰ってました.
I’m sorry but you could have reminded me when we met this morning.
それはすまなかったが朝会ったときにリマインドしてくれればよかったのに
僕は気づいてしまいました.ハリントン教授のI’m sorryの後には必ずbutがついてくることを.どうやら昨日のI’m sorryは「私が謝るべき理由はわかるけど」という意味だったのでしょう.反省していないじゃないか!
でも同時に,自分がよく使うI’m sorryも,もしかして反省の意だけをあらわすために言っているわけではないのか,とふと思いました.もし日本人どうしが交通事故を起こしたら,加害者側と被害者側の両者とも謝ることが多いと思います.車から出てきたらきっと「前を見ていなくて本当に申しわけないです」「こちらこそ急に止まってしまってすみません」というように.
この場合の日本人のI’m sorryは「謝るので事を荒立てない方向でお願いします」「非はそちらにありますが面倒事は避けたいのでこの件はなかったことにして早々に忘れましょう」という意味も含むのではないでしょうか.たった1つのフレーズに複雑すぎる意味が含まれています! そりゃあ外国人に対していつもの感覚で使っても,真意を理解してもらえないでしょう.
英語は言ったことが思っていることを直接表現するlow context language(低文脈文化の言葉),日本語は言葉以外に文脈や状況からも情報を伝達するhigh context language(高文脈文化の言葉)に分類されるそうです.日本人のI’m sorryの真意は,日本人にしか通じないのです.日本はお互いの言いたいことを汲みとり合おうとする,すごく思いやりのある文化だなと思う反面,なんて回りくどいんだ,とも思いました.
ちなみに,アメリカ人の同僚のアンジーは,なにか失敗して周りに責められたとき,すぐにI’m sorryと謝ったりはしません.僕が正論で諭すとすごく感情的になって,いわゆる「逆ギレ」をすることもあります.でもそんな日の次の日には必ず自分から僕のところに来てこう言います.
I’m really sorry about how I reacted and what I said to you yesterday. I should have been more careful. I’m so sorry. Will you forgive me?
昨日はあんな態度であんなことを言ってごめんなさい.私がもっと気をつけるべきだったわ.本当にごめんなさい.許してくれる?
1日置いて頭を冷やした後は,本当に素直.素直さは僕も見習わないと,と思います.アメリカ人がI’m sorryと言ったら,本気で反省しているってこと.僕はそう思っています.