科研費獲得の方法とコツ
速報

羊土社では,初めて科研費を申請する研究者,慣れていない研究者へ向けて,科研費の概要・応募戦略の立て方・申請書の書き方などを解説した単行本『科研費獲得の方法とコツ』(現在は第7版)を刊行しています.

ここでは,常に変更している科研費の制度に関して,本書の内容から更新された情報を,著者の児島将康先生に「速報」として随時紹介していただきます.ぜひ定期的にチェックしてください.

【速報】
令和4年度の公募の注意すべき3つの変更点―申請書の変更あり(2021.07.09掲載)

令和4年度の科研費の公募時期・締切時期が早まったことはすでに知っていることと思う(2021.4.21掲載の速報参照).基盤研究(B, C)や若手研究などに先んじて,7月1日に早くも公募が開始された基盤研究(S, A)では,これまでの公募と異なった部分がいくつか明らかになった.

1)申請書様式の変更について

一番影響の大きな変更は申請書の様式に関するもので,基盤研究(S, A)では,「1 研究目的,研究方法など」の中に「2 本研究の着想に至った経緯など」が組み込まれたことだ.つまり,これまで2つの欄に分けて書いていた内容を,「1 研究目的,研究方法など」に1つにまとめて,次の5つのポイントで記載することになった.

  1. 本研究の学術的背景,研究課題の核心をなす学術的「問い」
  2. 本研究の目的及び学術的独自性と創造性
  3. 本研究の着想に至った経緯や,関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ
  4. 本研究で何をどのように,どこまで明らかにしようとするのか
  5. 本研究の目的を達成するための準備状況

令和4年度基盤研究(S)の申請書より引用.

今回の改訂では,これまでの申請書と比べて記載する内容に変更はなく,記載欄と記載順の変更だけなので,比較的対応しやすいと思う.基盤研究(B, C)と若手研究の申請書様式はまだ公開されていないが,基盤研究(S, A)から推測すると,基盤研究(B)では「1研究目的,研究方法など」が5ページ,基盤研究(C)と若手研究では「1研究目的,研究方法など」が4ページになるものと思われる.

ここを見ている人の多くが基盤研究(B, C)と若手研究に応募するだろうから,ここでは基盤研究(C)の「1研究目的,研究方法など」が4ページになると想定して,どのような構成で全体のスペース配分を行っていけばよいか,その1つとして以下のような形を提案しよう().

  1. ① 1ページ目には「概要」と「背景 ,学術的「問い」」
  2. ② 2ページ目には「目的,学術的独自性と創造性」が半ページ,「着想に至った経緯,関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ」が半ページ
  3. ③ 3ページ目から4ページ目の半分くらいまでが「何をどこまで,どのように明らかにしようとするのか」の研究計画
  4. ④ 4ページ目の半分が「準備状況」とその他(研究体制やタイムスケジュール,最後の2〜3行のまとめ)

ずっと以前の申請書では「研究目的」が2ページ,「研究計画・方法」が2ページだったが,それとほぼ同じような構成だ.各項目を具体的にどのように書くのかは拙著「科研費獲得の方法とコツ 第7版」を参照してほしい.

なお以上の内容は7月1日に公開された基盤研究(S, A)の記載内容の変更をもとに,基盤研究(B, C)と若手研究に当てはめたもので,実際の申請書ではない.基盤研究(B, C)と若手研究に応募する人は,8月上旬公開予定のこれらの種目の申請書を必ず確認すること

令和4年度の公募の注意すべき3つの変更点―申請書の変更あり01 令和4年度の公募の注意すべき3つの変更点―申請書の変更あり02 令和4年度の公募の注意すべき3つの変更点―申請書の変更あり03 令和4年度の公募の注意すべき3つの変更点―申請書の変更あり04

2)挑戦的研究(萌芽)の審査方式の見直し

申請書以外の変更点としては,挑戦的研究(萌芽)の審査方式が「2段階書面審査」で行われることになった.これまでは第1段階の書面審査と第2段階の合議審査の「総合審査」によって採択が決定されていた.より申請書の内容が重要になった変更といえよう.

3)研究インテグリティについての注意

「研究インテグリティ」とは聞き慣れない言葉だが,「インテグリティ」(integrity)とは誠実,真摯,高潔などの概念を意味する言葉である.統合イノベーション戦略推進会議において「研究インテグリティは,研究の国際化やオープン化に伴う新たなリスクに対して新たに確保が求められる,研究の健全性・公正性を意味する」と定義されている.これは「研究の国際化やオープン化に伴う新たなリスク」に対応するために,研究費の重複受給の確認の他に,海外への情報流出や技術流出に該当しそうな案件(研究)がないかを確認することが目的である.

すなわち,研究活動の透明性を確保するために,

  1. ① 研究計画調書の「研究費の応募・受入等の状況」欄に国内の競争的研究費のみならず,国外も含めた研究資金を記載すること.
  2. ② 研究計画調書の「研究費の応募・受入等の状況」欄に記載した研究課題を応募・受入れるに当たっての所属組織・役職を記載すること.
  3. ③ 研究計画調書は,応募者が関与する全ての研究活動の状況を所属研究機関と適切に共有するとともに,外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号)に基づき規制されている技術の取扱いを予定している場合には,当該法律や所属研究機関の規程等を踏まえ,その対処方法等を十分に確認した上で提出すること.

文部科学省公表資料より引用.

が求められるようになった.研究においてもいろいろと難しい世の中になったものだ.

参考情報

本書関連項目

  • 2章-4.審査のしくみ(P37〜P44)
  • 3章-2.申請書の書き方(P102〜P104,P117〜P159)

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