レジデントノート:輸液ドリル〜実践に役立つ基本がわかる問題集
レジデントノート 2020年5月号 Vol.22 No.3

輸液ドリル

実践に役立つ基本がわかる問題集

  • 西﨑祐史/編
  • 2020年04月10日発行
  • B5判
  • 172ページ
  • ISBN 978-4-7581-1643-5
  • 定価:2,200円(本体2,000円+税)
  • 在庫:あり
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特集にあたって

特集にあたって

西﨑祐史
(順天堂大学 革新的医療技術開発研究センター/大学院医学研究科 クリニカル・トランスレーショナルサイエンス/順天堂大学医学部附属順天堂医院 臨床研究・治験センター/臨床研修センター本部 初期研修医担当/循環器内科)

 はじめに

将来的に,臨床医を目指すうえでも,研究者を目指すうえでも,初期臨床研修の経験により培われる「基本的臨床能力」は,その後の医師キャリア形成に多大な影響を与えます.本誌を手に取ってくれている皆さまの多くは,今まさに,「初期研修医」として各科をローテートしている最中だと思います.15年ほど前に,皆さまと同じ経験(初期臨床研修)をした先輩として「初期研修医」の心得をいくつか紹介させていただきます.

なお,ここで紹介させていただく心得は,私がプロジェクトマネージャーを務めさせていただいている,日本医療教育プログラム推進機構(Japan Institute for Advancement of Medical Education Program:JAMEP)「基本的臨床能力評価試験(General Medicine In-Training Examination:GM-ITE)」1)の解析結果から報告されたエビデンス(原著論文)に基づいた内容となっております.

GM-ITEとは?

GM-ITEは,初期研修医を対象とした「In-Training Exam(研修中の試験)」であり,2011年度(第1回)より導入され,2018年度(第8回)には503病院,約6,200名が受験する程の規模に拡大しています.試験問題は「医療面接・プロフェッショナリズム」,「症候学・臨床推論」,「身体診察法・臨床手技」,「疾病各論」の4分野で構成されており,幅広い疾患領域(内科・外科・救急・小児科・産婦人科・精神科など)が網羅されています1)

エビデンスに基づく「初期研修医」の心得

● その1:積極的に多くの症例を経験しよう


2013年度(第3回)のGM-ITEデータ(208病院,初期研修医2,015名)を解析したところ,入院患者数が多く,研修医以外のスタッフ(医師)が少ない施設でGM-ITEスコアが高いという結果を得ました().本研究結果から,初期研修医は多くの症例を経験し,かつ指導医は限られた人数の方が,教育効果は高い可能性が示されました3).また,2012年度(第2回)のGM-ITEデータ(114病院,初期研修医1,049名)を解析した結果では,常時入院受け持ち患者数12人以上がGM-ITE高得点と最も関連しました2)

● その2:EBM Online Resourcesを活用し効率よく情報を収集しよう

前述した,2012年度GM-ITEデータを解析した結果では,常時入院受け持ち患者数12人以上に加えて,UpToDateなどのEvidence Based Medicine(EBM)Online Resourcesの使用がGM-ITE高得点と有意に関連しました2).この結果より,豊富な症例から学ぶことに加え,エビデンスに基づいた確かな情報を効率よく収集することの重要性が示されました.

輸液は「初期研修医」の登竜門

前置きが長くなりましたが,ここからが本題です.輸液の知識は「初期研修医」にとって最重要課題の1つです.なぜならば,輸液療法は,指導医が初期研修医に最初に任せる仕事の代表だからです.

あなたの決断により,目の前の患者の入院経過が大きく変わるといっても過言ではありません.心機能の悪い患者に対して細胞外液を大量に投与してしまえば,心不全を引き起こしてしまうかもしれません.水中毒による低ナトリウム血症患者に対して,不用意に3%NaClを投与してしまえば,浸透圧性脱髄症候群を引き起こす可能性があります.もちろん指導医は,患者を安全に退院させるために,あなたの判断に間違いがあれば正してくれるでしょう.

逆にいえば,指導医に自分の実力を見せるよいチャンスととらえることができます.まさに,輸液療法は「初期研修医」にとって腕の見せ所なのです.

前述した「初期研修医」の心得でお伝えさせていただいた通り,効率よく正しい知識を収集し事前知識をつけたうえで,多くの症例を通じて,積極的に輸液療法を学んでください.それが,患者のためになり,かつ自分自身の「基本的臨床能力」の向上に繋がります.まさに,ウィリアム・オスラー氏の残した格言「To study the phenomena of disease without books is to sail an uncharted sea, while to study books without patients is not to go to sea at all」4)の通りです.

本特集の構成と特徴

本特集は現場感覚,実践を重視する内容として,各フィールドにおいて臨床現場の最前線で活躍している先生にご執筆していただいております.また,読者の皆さまに効率よく知識を吸収していただくために,症例(問題)形式にしました.症例(問題)は,「初期研修医」が現場で特に困ることを重視させていただき,解説についてはできる限り思考プロセスにフォーカスするように配慮しました.また,全体的にエビデンスを重視する内容となっています.

本特集が多くの皆さまのお役に立てることを,心から願っております.また,最後にご尽力いただきました執筆者の先生方には,この場をお借りして深謝いたします.

文献

  • JAMEP:基本的臨床能力評価試験 GM-ITE
  • Kinoshita K, et al:Impact of inpatient caseload, emergency department duties, and online learning resource on General Medicine In-Training Examination scores in Japan. Int J Gen Med, 8:355-360, 2015(PMID:26586961)
  • Mizuno A, et al:The Impact of the Hospital Volume on the Performance of Residents on the General Medicine In-Training Examination:A Multicenter Study in Japan. Intern Med, 55:1553-1558, 2016(PMID:27301504)
  • Osler W:Address on the Dedication of the New Building. Boston Med Surg J, 144:60-61, 1901

著者プロフィール

西﨑祐史 Yuji Nishizaki
所属:順天堂大学 革新的医療技術開発研究センター/大学院医学研究科 クリニカル・トランスレーショナルサイエンス/順天堂大学医学部附属順天堂医院 臨床研究・治験センター/臨床研修センター本部 初期研修医担当/循環器内科
専門:総合内科,循環器内科学全般,研修医教育,医学教育,臨床研究支援
聖路加国際病院内科初期臨床研修医,内科専門研修医を経て,内科チーフレジデントを務める.その後,東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻(SPH)で臨床研究方法論を学ぶ.順天堂大学循環器内科入局後は,循環器内科臨床・臨床研究・教育をバランス良く実践し,平成27年に厚生労働省に出向[健康局がん対策・健康増進課/疾病対策課(併任)],その後,日本医療研究開発機構(AMED)戦略推進部難病研究課へ異動し,日本の医療研究のファンディング業務に従事した.平成29年に順天堂大学に戻り,現在は,臨床研究・治験センター臨床研究支援室長として,主に大学全体の臨床研究支援における基盤構築を担っている.また,同時に公衆衛生大学院コースを担当し,「臨床疫学」等の講義を通じて,大学院生の指導にあたっている.研修医教育活動としては,日本医療教育プログラム推進機構(JAMEP)基本的臨床能力評価試験(GM-ITE)プロジェクトマネージャー・順天堂大学 臨床研修センター本部 初期研修医担当を務めるほか,輸液レッスン(メジカルビュー社),デキレジ(医学出版)等の研修医向け書籍を多数執筆している.
初期研修医へのメッセージ:初期研修医時代は,ジェネラルな視点で,何事にも興味をもって積極的に取り組んでください.日々の努力は必ず報われます.

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