レジデントノート:いま見直したい、発熱診療のキホン〜発熱の機序、鑑別診断、解熱の意義など、COVID-19がある今こそ押さえたい大切なこと
レジデントノート 2021年8月号 Vol.23 No.7

いま見直したい、発熱診療のキホン

発熱の機序、鑑別診断、解熱の意義など、COVID-19がある今こそ押さえたい大切なこと

  • 一瀬直日/編
  • 2021年07月09日発行
  • B5判
  • 154ページ
  • ISBN 978-4-7581-1665-7
  • 定価:2,200円(本体2,000円+税)
  • 在庫:あり
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特集にあたって

特集にあたって

一瀬直日
(赤穂市民病院 総合診療科)

2019年末から続くCOVID-19の世界的流行は,世のなかの人々の社会生活の姿をすっかり変えてしまいました.それだけではなく,医療現場での診療スタイルまでも大きく変えてしまいました.初期臨床研修医の研修環境や経験する疾患も随分と変化したことは,しかたがない現状とはいえ,現場で働く指導医たちも「このままでよいのだろうか」と漠然とした不安にかられていることと思います.

COVID-19罹患者の受け入れ医療機関では,未知のウイルスに研修医を曝露させないために,あえて発熱受診患者は指導医が主として診るようになったところもあります.一方で発熱やかぜ症状の患者さんの受診を断る医療機関もありました.これらの結果,従来,最前線で発熱診療を行ってきた研修医が発熱疾患を最初から診療する機会が減ったという声が羊土社でのアンケートから見えてきました.本特集では,発熱を呈した患者さんを診療する手順と考え方に焦点を絞り,第一線の医療機関で発熱疾患を診ている指導医の先生方の監修のもと,研修医と一緒に働く専攻医などの若手の先生方に解説していただきます.

外来での発熱診療の心構え

COVID-19の流行以前から変わらない外来での基本的な発熱診療の心得は以下の4点です1)

  • 入院は必要か?
  • 何らかの検査は必要か?
  • 抗生物質は必要か?
  • どの対症療法が必要か?

また発熱の原因として考えられる代表的疾患群が以下の4つです.

  • 感染症
  • 悪性腫瘍
  • 炎症性疾患
  • 薬剤熱(ワクチンの副反応も含む)

「発熱」という症状に対する鑑別診断をあげはじめれば,稀な疾患も含めて果てしなく長い鑑別リストができあがるだけとなることは容易に想像がつくでしょう.

本特集の各論では,この心得と代表的疾患群を念頭に鑑別をあげつつ,「すぐに受診して精査したほうがよい病態」「重篤な疾患の徴候」「鑑別のカギ」が解説されていきます.

発熱の原因診断後に行うこと

さて,各論に解説した手法で発熱の原因がわかったら次の行動に移りましょう.

  1. ① どうして発熱したかを,患者さん,その家族に説明する
  2. ② どういう危険サインに気をつけたらよいかを説明する
  3. ③ どれくらいの頻度で体温測定したらよいかを決める
  4. ④ 治療薬を決めるとともに,対症療法は何をどれくらい行ってよいかを決める
  5. ⑤ できれば今後の予防と健康増進の方法を1つ提案する

上から4つまでの説明は慣れていることと思います.⑤は,例えば肺炎になった高齢者に対しての肺炎球菌ワクチンが未接種なら接種計画を立ててあげることです.特に,肺炎で入院した患者さんの退院時にワクチンを接種することにしておけば,患者さん本人のモチベーションも高く,ワクチンの取り寄せや支払いなどの手続きもスムーズで,外来で起きるような接種予定日を忘れてしまうといったトラブルもありません.米国の病院では入院時に肺炎球菌ワクチン接種が必要かをスクリーニングし,ワクチン取り寄せまでを自動的に行えるシステムづくりを行うことで接種率を飛躍的に向上させた取り組みが報告されています2).発熱で受診した患者さんが,なぜ重症化したのか,どうしてすぐに来院できなかったかを詳しく病歴聴取すると,単に病院嫌いという信念や経済的問題を抱えていたという以外に,専門的アドバイスを受ける医療者に恵まれない地域環境に生活していたり,正しい医学情報を自分から得にくい障壁や障碍を抱えていたりすることが判明する場合もあります.本人をはじめとし,家族やその周囲の人々に同じ疾患や病態をくり返さない予防策まで提供できるようになることが理想の診療です.

発熱患者を上手に診療するために,もっておきたい広い視点

下痢・嘔吐を呈する発熱患者が受診したときに,「今,この地域ではノロウイルス感染が流行しはじめているので,その可能性が高いかと思います」とか,発熱と結膜充血の患者が受診したときに,「今,この地域では流行性角結膜炎が増えているので,その可能性が考えられます」といった指導医の説明を聞いたことがありませんか? 私もまだ経験が浅かった頃,院外の地域事情まで知っている指導医が的確に診断し,患者さんや家族に説明する姿は絶対に見習いたいと思ったものでした.

今や,COVID-19のニュースや各都道府県ごとの新規感染者数は毎日のようにテレビ,新聞,インターネットニュースでくり返し報道され,このウイルス感染症の疫学情報だけは誰でも簡単に手に入れられています.つまり,流行地で「発熱する」「咳が出る」「味覚嗅覚障害がおきた」と語れば,素人でも「コロナ感染じゃないの?」と疑えるようになっています.しかし,2020年以前は医療者でさえ自分から地域ごとの感染症流行状況のデータを多少なりとも時間をかけて探しアクセスしなければ,今どの地域で何が流行しているか知ることができませんでした.ちなみに当院では兵庫県感染症発生動向調査週報(速報)を電子カルテから直接閲覧でき,救急外来での発熱診療には大変役立ってきました3).全国版の感染症発生動向調査(週報)ももちろん公開されています4).なお,兵庫県の週報には全国版のアドレスが記載され,ワンクリックで閲覧できます.COVID-19流行の時代が終われば,なんでもCOVID-19を疑って検査することもなくなり,再び各種感染症の地域流行状況を自分で積極的に情報収集してから,最も疑う感染症を標的に病歴聴取,診察,検査を行うようになっていくでしょう.研修医の先生方は,ぜひ,今のうちに地域流行を把握する手段を知っておいてください.それが発熱診療に役立つ広い視点を養うことは間違いありません.それでは各論を読み進めてください.

文献

著者プロフィール

一瀬直日(Naohi Isse)
赤穂市民病院 総合診療科
専門:家庭医療学
通常の診療業務と掛けもちで勉強し,オンラインコースを主として2019年にJohns Hopkins大学の公衆衛生学修士を取得しました.地域や社会の視点での貢献や臨床研究にますます興味をもって活動しています.世界では随分前からオンライン教育が発達しており,コロナ禍でもすぐに適応したようですが,一般には多くの人がはじめてのオンライン教育に慣れることに苦労したことと思います.オンラインだけでなく,再び実際に会っての教育機会をもてる日を待ち遠しく思っています.

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