レジデントノート:救急・ERを乗り切る! 整形外科診療〜専門医だからわかる診察の着眼点、画像読影・処置・コンサルトのコツを教えます
レジデントノート 2023年1月号 Vol.24 No.15

救急・ERを乗り切る! 整形外科診療

専門医だからわかる診察の着眼点、画像読影・処置・コンサルトのコツを教えます

  • 手島隆志/編
  • 2022年12月09日発行
  • B5判
  • 162ページ
  • ISBN 978-4-7581-1691-6
  • 定価:2,530円(本体2,300円+税)
  • 在庫:あり
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特集にあたって

特集にあたって

手島隆志
(医療法人同愛会 小澤病院 整形外科医長)

「整形外科は苦手」を克服するために

救急外来で整形外科的な診療が求められる場面はよく遭遇します.一方で,体系的に整形外科診療を学ぶ機会が少なく,苦手意識をもっておられる読者も多いのではないでしょうか.主訴から解剖学的な局在を絞り込むための診察が難しい.単純X線写真の読影が難しい.また診療の最後にシーネ固定をはじめとする処置が求められる.自宅に帰れない患者さんが多い.診療結果は生命にかかわることはなくても,機能予後にかかわる.訴訟も多い1).…こういった理由が重なっているからだと思われます.

本特集では救急外来で遭遇する頻度の高い主訴別に診療の要点をまとめました.まずは,年齢・主訴・受傷機転から,頻度の高い骨折や疾患を知ってもらいたいと思います.これにより的を絞った診察が可能になります.画像検査は診察の延長線上にあり,原則臨床所見のあるところに骨折や病変がありますので,おのずと読影すべきポイントが絞られ,読影のプレッシャーが減るでしょう.

オンラインで症例相談も勉強もできる時代になったけれど

整形外科医のバックアップがない状況にあっても,近年オンラインで症例の相談ができるサービスが充実してきています.しかし救急外来で必要なアドバイスがすぐ得られるとは限りません.整形外科的診療では画像のアップロードが必要になり,内科的な相談よりも個人情報の取り扱いの注意が必要です.

関節穿刺やシーネ固定の方法は,動画を簡単に検索し勉強できるようになりましたが,実際には痛がっている患者さんにさらに痛いことを行うことになりますので,落とし穴やちょっとしたコツがあります.これらを専門家からのメッセージとともに学んでいただきたいと思います〔「関節穿刺・注射」(p.2642〜),「シーネ固定」(p.2649〜)参照〕.

骨折の診療では,感度の高い身体所見を知ろう

診察で骨折の検査前確率を推定していく際,下肢では荷重歩行可能かどうかが有用ですが〔「足首をひねった」(p.2600〜)参照〕,上肢や頸椎といった非荷重部位では自動可動域が有用です.正常可動域を数字として覚える必要はありません.上肢では健側との比較で制限の有無をみます.肘関節では骨折の除外にあたり感度の高い所見とされます2).手関節3)や頸椎では可動域制限の有無は臨床予測ルールに組込まれています〔「交通事故に遭って首が痛い」(p.2618〜)参照〕.非侵襲的な診察ですので,ぜひ診療にとり入れてみてください.

画像検査の特性を知ろう

単純X線写真で,明らかな骨折がみつかった場合はその後の対応に迷うことは少ないでしょう.問題は,折れているのか,折れていないのか,よくわからないときです.

単純X線写真の感度が低い骨折として,代表的なものに以下があります.

  • 手舟状骨骨折〔「手をついた」(p.2593〜)参照〕
  • 脊椎圧迫骨折,骨盤脆弱性骨折〔「高齢者が尻もちをついた」(p.2609〜)参照〕
  • 高齢者の頸椎骨折,特に軸椎骨折〔「交通事故に遭って首が痛い」(p.2618〜)参照〕
  • 肋骨骨折〔「骨関節・軟部組織のエコー」(p.2632〜)参照〕

これらを知っておけば,痛みがあるがはっきりと骨折がわからない場合でも,「臨床的には骨折の可能性が高い」という判断のもと次の行動に移ることができるでしょう.

さらに検査すべきはCTかMRIでしょうか? それともエコーでしょうか? 原則として骨折の検出感度が高いのはCTよりもMRIです.CTは骨皮質や骨梁に破断を生じていないような骨折を検出できませんが,MRIでは4),骨髄内や周囲軟部組織の出血や炎症が反映されるため検出しやすくなります.一方CTは,すでにわかっている骨折の粉砕の評価や手術術式の決定に特に有用です.もちろん救急外来では施行可能な検査も時間も限られますから,状況に応じて検討する必要があります.

またエコーが強力な武器になる場合があり,肋骨骨折がその代表例です.初学者でも容易に実践できるものを「骨関節・軟部組織のエコー」(p.2632〜)にまとめてもらいました.

いつコンサルトする,どうコンサルトするか?

神経血管損傷,コンパートメント症候群,開放骨折,関節脱臼,頸椎・頸髄損傷,また化膿性関節炎を疑うケースではすみやかにコンサルトすることに異論はないと思います.小児の骨折や,転位の大きい骨折では,徒手整復や緊急手術を検討することもありコンサルトの閾値を下げる必要があります〔「手をついた」(p.2593〜),「足首をひねった」(p.2600〜)参照〕.

一方,高度な治療は必要でないけれど,帰宅の難しい患者さんをどうするか,私も研修医の頃迷ったことが多く,最後の稿にまとめさせていただきました〔「家で暮らせない,入院させてと言われたら」(p.2655〜)参照〕.

本特集が,整形外科診療で感じるプレッシャーを減らし,救急当直を乗り切るための一助となることを願っています.

文献

  • 最高裁判所:医事関係訴訟事件(地裁)の診療科目別既済件数
  • Appelboam A, et al:Elbow extension test to rule out elbow fracture:multicentre, prospective validation and observational study of diagnostic accuracy in adults and children. BMJ, 337:a2428, 2008(PMID:19066257)
  • Walenkamp MM, et al:The Amsterdam wrist rules:the multicenter prospective derivation and external validation of a clinical decision rule for the use of radiography in acute wrist trauma. BMC Musculoskelet Disord, 16:389, 2015(PMID:26682537)
  • 曽根照喜:骨粗鬆症による骨折の病態・診断・評価・治療 画像診断.日本臨牀,71:480-483,2013

著者プロフィール

手島隆志(Takashi Teshima)
医療法人同愛会 小澤病院 整形外科医長
神奈川県小田原市の海の見える病院で,地域に根差した整形外科診療を展開しています.
おとなもこどもも,けがも病気も,専門もハザマも.スペシャリストでありつつジェネラリストとしても活躍できる整形外科の魅力を知ってもらいたいと思います.

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