勝負はプレゼンの前に決まっている!?臨床でまず身につけるべきプレゼンの秘訣を伝授.聞き手・状況に応じた内容や順番,さらに専門科別のコンサル等,アウトプットまでの過程からわかるので本物のプレゼン力がつく
初期研修医の仕事のうち,重要なものの1つが症例プレゼンテーションである.救急や初診外来で診療した患者さんについて,上級医や医療チームのメンバーにプレゼンすることが要求される.研修医が,洗練されたよいプレゼンテーションを行うことは,患者さんのケアに貢献することになる.あの研修医はすごいとか,あの研修医はできる,などという評価は,症例プレゼンがうまくできていることに相関していることが多い.
このように重要な症例プレゼンであるが,研修に入るまでの医学生時代に十分なトレーニングを受けていないことが多い.知識を試す試験を突破するためのインプットに忙殺され,医療チームの一員としての役割を与えられてこなかった医学生は,本来学習すべきアウトプットの方法についてほとんど身につけないまま研修をスタートするのである.
一方,医学生時代に成績のあまりよくなかった人が,すごい研修医となり,同期と比べて一気に伸びる場合がある.医学部時代にはアウトプットのトレーニングが行われないために,初期研修医スタートの時点でこれまでの勉強がリセットされて,本番(本物)の学習がスタートするからなのだ.
症例プレゼンについての本物の学習は,これまで一部の臨床研修病院でのみ可能であったが,近年になって症例プレゼンを標準化させるよい本や雑誌が登場した.まずは,岸本暢将 氏による「米国式症例プレゼンテーションが劇的に上手くなる方法」.これは10年以上毎年新しい研修医に読まれているベストセラーである.また,今回の著者である水野 篤 氏らによるレジデントノートにおける約10年前の症例プレゼンの連載などである.これらの本や雑誌の連載については,評者も少しだけお手伝いさせていただいた.
そこで登場したのが本書である.最近の10年間で,ビジネス界,アカデミア,哲学などのさまざまな分野からプレゼンテーションの叡智やスキル,暗黙知がカミングアウトし,世界中に広がったが,本書はこれらのエッセンスを盛り込んでいる.症例プレゼンも進化の圧力にさらされ,本書がついに誕生したのである.
本書は,プレゼンテーションの基本,実践,コンサルテーションのあり方のみならず,学会やレクチャーでのプレゼンテーションまで網羅している.指導医にも役に立つであろう.著者の水野氏がレジデントノート症例プレゼン企画で行った関西弁でのやりとりのリード文は,本書でも引き継がれており,楽しく読むことができる.
本書には,プレゼンに関係する学際的な知識が満載であり,医学や医療を超えたプレゼンテーションのスキルを得ることができる.医療チーム内だけでなく,家族や友人とのコミュニケーションスキルのアップにも役立つだろう.
最後に私からのアドバイスを1つ.それは医学生に向けてである.この本を医学部に入学した直後にむしろ読むことを勧めたい.それは6年後に何をすればよいかがわかるからである.本書に書かれていることを知っておいて6年間を過ごすと,もっとすごい研修医になれるのではないかと直感的に感じるのだ.もし私が医学生時代に戻ることができるならば,そのアドバイスに従うだろう.
徳田安春(群星沖縄臨床研修センター センター長)
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