特集にあたって 特集にあたって 舩越 拓(東京ベイ・浦安市川医療センター 救命救急センター) 膨大な医学情報をどのように入手し活用するべきか,という話を後輩の医師とする際に,私がよく使う例え話はドラえもんです.さまざまな困難に立ち向かうドラえもんですが,ドラえもん自身は決して強いわけではありません.ドラえもんの強みは直面した課題に対して適切な道具をポケットから出して対処できることです.しかし肝心のポケットの整理を怠ると大事な道具をいいタイミングで出すことができず危険に晒されていることがあります. ドラえもんと臨床医の仕事との共通点は,直面した臨床的問題に対して適切な答えを限られた時間で示す必要があるところでしょう.しかし医学の進歩によって求められる知識は膨大になり,次々と新しい知見が生まれます.私が医師となった20年前は心不全の治療に糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬がスタンダードになる時代など想像しませんでした(そもそも心不全にβ遮断薬は禁忌ですらあった). そう考えるとわれわれは常に新しい知識をとり入れ,自分のプラクティスに応用していく過程を,キャリアの段階によらず継続していく必要があります.そのためにはわれわれは効率よく医学情報をとり寄せる術を持っているべきであり,そうした方法を整理するためにレジデントノート2020年8月号にて『医学情報を獲りに行け!』の特集を組みました. しかし今,われわれは新たな時代に突入しています.それがLLM(large language model:大規模言語モデル)の出現です.どんな臨床的疑問にも答えを返してくれるため,とても有用で私も当たり前のように用いるようになりました.ネット検索も充実し,インターネット上にも情報が氾濫していますので少なくとも情報が全くないこと,足りないことに悩む時代は終わったといってよいでしょう. そのうえでわれわれは,情報の取捨選択ができることが求められています.ネット上のブログ,LLMの返してきた答え,果たしてそれらの情報は正しいのでしょうか,眼の前の患者さんに適応してよいのでしょうか. 本特集は2025年の時点で,初学者が押さえておくべき医学情報の入手から患者へ適応するまでのプロセスをまとめたものです.「第1章:臨床的疑問と向き合う」では医学情報を収集する前に知っておきたい臨床疑問のとらえ方とその解決について,「第2章:変わらず重要な医学情報の集め方」では,PubMedやUpToDateの使い方,SNSやアプリの活用など医学情報の収集とまとめ方について,「第3章:生成AIとの付き合い方」ではいま急速に発展する生成AIの基本知識から論文読解等への実践までご解説いただいています. そもそも臨床で直面した疑問をどのように定式化したらよいのか,その疑問を調べるためのさまざまなツールの強みや弱み,調べたことを自分の血肉にするための情報整理術がこの一冊で俯瞰できるようになっています. 医学知識を魚に例えて「魚を与える(知識のみ)のではなく魚の釣り方(勉強のしかた)を教えよ」という格言はありますが,実際の教育現場で魚の釣り方を教えてもらえる機会は限られています.本特集がそのガイドブックとなり,見事な問題解決ができるドラえもん医師が増えれば幸いです. 著者プロフィール 舩越 拓(Hiraku Funakoshi)東京ベイ・浦安市川医療センター 救命救急センター中堅と呼ばれる年代になってきましたが,生涯学習のための方法を模索しながら息の長い臨床医を目指しています.