特集にあたって 特集にあたって 舩冨裕之(東京ベイ・浦安市川医療センター 救急集中治療科) 皆様はPOCUS(point-of-care ultrasound)という言葉を聞いたことはあるでしょうか. ベッドサイドで行われるPOCUSの特徴は,系統的超音波検査と対比して説明されることが多いです.系統的超音波検査は検査室で超音波技師や専門医が行うもので,さまざまな臓器を系統的・包括的に,詳細な計測による定量化を行いながら評価します.その習得には相当な時間が必要で,ハードルが高いものです.一方でPOCUSは,診療を行う臨床医がベッドサイドで行うもので,関心のある部分のみを評価し,目測による定性的・半定量的な評価が中心です.そのハードルは決して高くなく,研修医の先生方でも十分に習得可能なものと思います. 1990年頃から米国でFAST(focused assessment with sonography for trauma)を中心としたベッドサイドでの超音波検査が利用されており,2011年にThe New England Journal of Medicine誌にPOCUSの総説1)が掲載されたのを機に日本で普及しはじめました.それはちょうど私が研修医だった時代のことでした.当時初期研修医として救急科をローテートしていた私は,先輩と一緒にベッドサイドで超音波をしながら,「自分でプローブを当てるだけですぐに次の治療や検査につなげられる,なんてすばらしいツールなんだ!」とすっかりその魅力にとりつかれてしまいました.後期研修医になってからは,当時の先輩方と一緒にPOCUSの定期的な勉強会を行い,さらにその魅力にのめり込むことになります. 一方で研修医を指導する立場になってからは,POCUSのリスクも実感するようになってきました.これはPOCUSの利便性が高いあまりに,研修医に与えてしまう「誤解」が原因だと考えています.POCUSはあくまで病歴や身体所見に追加される検査の1つであり,決して「身体所見にとって代わる」ものではありません.またPOCUSの診断精度に限界があることも認識しなければなりません.病歴や身体所見を軽視してしまい,超音波検査所見に翻弄されてしまっては,もはやPOCUSは有用なツールではなく,患者の害とすらなってしまうでしょう. では,どのようにして診療に正しくPOCUSをとり入れればよいでしょうか.ここでは「I-AIMモデル>」というフレームワーク2)を紹介します.I-AIMモデルはIndication(適応),Acquisition(画像取得),Interpretation(画像解釈),Medical Decision Making(臨床への統合)の4つから構成されます.すなわち,臨床的な超音波検査の適応を判断し(I),質の高い適切な画像取得を行い(A),得られた画像を正しく解釈して(I),病歴や身体所見,ほかの検査データなどの臨床情報と統合しながら臨床決定を行う(M),という考え方です.漫然と超音波検査を行うのではなく,I-AIMモデルに沿って考えながらPOCUSを行うことで,適切に診療にとり入れることができるように思います. 本特集では素早い病態の把握や適切な処置が求められる救急分野のエコーについて,経験豊富な先生方に執筆していただきました.先ほどのI-AIMモデルのなかでも特に研修医の先生方が難しく感じておられる「画像取得」に焦点を当てながら,適応や画像解釈,臨床への統合についても学ぶことができるように配慮いたしました.エコーによる臓器別・症候別評価だけでなく,エコーガイド下手技についてもご解説いただき実用的な特集となりました.皆様の日々の診療に少しでも役に立ち,患者様の治療に貢献できることを願っています.またご尽力いただきました執筆者の先生方には,この場をお借りして深謝いたします. 引用文献 Moore CL & Copel JA:Point-of-care ultrasonography. N Engl J Med, 364:749-757, 2011(PMID:21345104) Bahner DP, et al:I-AIM:a novel model for teaching and performing focused sonography. J Ultrasound Med, 31:295-300, 2012(PMID:22298874) 著者プロフィール 舩冨裕之(Hiroyuki Funatomi)東京ベイ・浦安市川医療センター 救急集中治療科救急外来で経食道心臓超音波検査を導入し,一歩進んだ救急エコーにとり組んでいます.救急エコーに興味のある方,ぜひ見学にいらしてください!