レジデントノート:みんなの必修科目!“医療のお金”の話〜あなたの診療の価値とは?実務に活きる医療費・保険診療のあれこれ
レジデントノート 2025年11月号 Vol.27 No.12

みんなの必修科目!“医療のお金”の話

あなたの診療の価値とは?実務に活きる医療費・保険診療のあれこれ

  • 平木秀輔/編
  • 2025年10月10日発行
  • B5判
  • 146ページ
  • ISBN 978-4-7581-2742-4
  • 2,530(本体2,300円+税)
  • 在庫:あり

特集にあたって

特集にあたって

平木秀輔
(関西学院大学 経営戦略研究科 教授(腎臓専門医))

今回の特集は,『医療に関するお金のお話』です.読者の皆さんは大半が研修医を中心とした若手の先生だと思いますが,皆さんはご自身のお仕事が生み出す「お金」について考えたことがあるでしょうか.最近は少し風向きが変わりつつあるものの,少なくとも一昔前までは臨床現場において「医は仁術」「医療者がお金にこだわるなんてとんでもない」という共通認識がありました.今もそういう雰囲気の強い環境にいらっしゃる読者の方も多いかもしれません.

その反面,医師の平均年収は日本の職業のなかで比較的上位に位置します1).そして「一部の高校生は高給を求めて医学部に進学するのであって,医療に対する熱意があるわけではない」という論調をみかけることもあります.これが事実だとすると,このような高校生の考え方が6 年間の医学教育で大幅に変化していなければ,実はその給料(お金)に対して大いに興味をもっている医師は少なくないのかもしれません.

筆者の,医療経済学の研究者としての課題意識はこの点にあります.誤解を恐れず簡単な表現をすれば,「医師はなぜこの水準の給与をもらえるのだろうか」ということをずっと疑問に思い,研究を続けています(ちなみに医師の待遇がよいのは世界共通ではなく“経済的に魅力的な職業”ではないとされる国も多数あります).

研究者っぽくいえば「医療の価値とは何か」ということになるでしょう.実は「価値」と「お金」には密接な関係があり,【総論】ではその関係を説明しつつ,診療報酬制度との関係を概観します.次に【各論】では,はじめに医療に関するお金の話の根幹となる,わが国の公的医療保険制度と診療報酬制度の存在意義を説明します.続けて具体的な診療報酬の仕組みについて説明します.読者の多くは基幹的な病院で入院診療を中心に担当されていると思いますので,まず入院全般・手技や処置・手術室・救急外来をとり上げます.

専攻医になれば外来業務を担当することが増えてくると思います.そこで続けて外来とクリニックに関する事項をおさらいし,公的医療保険以外の医療費補助制度について説明します.生活保護や特定疾患等医療給付制度・高額療養費制度など,「自己負担は原則3割」以外の“制度知識の引き出し”をもっておくと,特に外来において咄嗟の反応ができるようになり,患者さんの状況に応じた“ワンランク上の細やかな医療”の提供が期待できます.

また,筆者は病院経営の研究者でもあります.「病院経営って難しそう」や「自分には関係ない」と思いがちです.確かに皆さんの大半は勤務医で,経営に直接かかわる機会は少ないでしょう.ですが皆さんのお給料は皆さんのお仕事の成果を執行部(経営陣)がとりまとめ,どこに資源を配分するか,意思決定を行った結果なのです.お給料だけでなく,医療機器の配備や建物の新築など,勤務環境そのものが経営意思決定の結果といえます.そこで皆さん自身が経営に関する最低限の知識を身につけ,勤務先をさらによい環境にすることへ貢献できれば,それは素晴らしいことではないでしょうか.

また将来開業を考えておられる方もいらっしゃるかもしれません.そのときは自分が経営者としてさまざまなこと,特にお金に関することを管理しなければなりません.もちろん助けてくれる専門職はいますが,最終的な意思決定は自分の責任です.

そこで,最後に病院経営,特に財政的な側面もあわせてとり上げます.病院経営において大切なリーダーシップや組織行動に関する議論もとり上げたいところですが,今回は残念ながら割愛します.ご興味のある読者は,書店で「病院管理学」のコーナーへ足を運んでみてください.

なお,執筆者の多くは筆者の病院勤務時代の同僚や筆者の現在の勤務先であるビジネススクールに通ってくれた医療スタッフです.本誌の分担著者としては異例の構成ですが,診療報酬管理をはじめとした病院経営はさまざまな職種の職員によって実践されています.それぞれの実務経験・専門知識をフル活用して執筆してもらっていますので,そこから皆さんの実務と将来に役立つ何かを得ていただければ幸いです.

引用文献

著者プロフィール

平木秀輔(Shusuke Hiragi)
関西学院大学 経営戦略研究科 教授(腎臓専門医)
腎臓内科医出身,病院のCIOを経てビジネススクールの教授をやっています.医療経営が取り扱う領域のなかでは情報システム(経営工学)や財務・会計が専門です.実は日商簿記1級(税理士をめざしましたが永久中断中).「医療の価値とは何か?」と考え続けています.

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