レジデントノート:向精神薬の“困った”を解決します〜入院中のせん妄・不眠への薬の選び方・使い方から薬の中止・継続の判断、副作用への対応まで
レジデントノート 2026年1月号 Vol.27 No.15

向精神薬の“困った”を解決します

入院中のせん妄・不眠への薬の選び方・使い方から薬の中止・継続の判断、副作用への対応まで

  • 石田 琢人 /編
  • 2025年12月10日発行
  • B5判
  • 162ページ
  • ISBN 978-4-7581-2745-5
  • 2,750(本体2,500円+税)
  • 在庫:予約受付中

特集にあたって

特集にあたって

石田琢人
(東京都立松沢病院 内科)

研修医の皆さんにとって“向精神薬”というのは,とにかくつかみどころがなく,使いにくい薬剤ではないでしょうか.種類が多い割にはどのような観点で使い分けられているかがわかりにくく,効果判定に関しても何を目標としてどのような症状を評価しているのかがはた目には非常にわかりにくいと思います.無効と判断する際にも,どのような症状がどの程度持続したら無効と判断するのかもわかりにくいのではないでしょうか.例えば,向精神薬処方によって不穏だった患者さんが一日中寝るようになってしまった場合,良くなったと評価するのか,悪くなったと評価するのかは,精神科医の間でも必ずしも一致しなかったりします.これに加えて,精神科医ごとに処方の癖やこだわりがあったりして,医師ごとに言っていることが違ったりすることも少なくありません.これは,感染症治療における抗菌薬の使い分けや効果判定,がん性疼痛に対する鎮痛薬使用の際の治療目標,患者背景や疾患によって変わる降圧薬の選択や治療目標などと比較すると,非常にあいまいなものに感じられるのではないでしょうか.

実際のところ,少なくとも私が精神科医になったばかりの頃には,精神科臨床のなかでさえ薬物療法は玄人芸のようなものとしてとらえられ,多剤併用の複雑な処方が蔓延し,処方した本人にしかその意図がわからないということも少なくありませんでした.しかしながら,EBMの時代においてこういった玄人芸の有効性は証明されておらず,現実問題としても研修医の皆さんが玄人芸を身につけるまで精神科の修練をすることは不可能です.Multiproblemをもつ患者さんが増えている現代において,精神科領域においてもcommon problemに関しては,研修医でもできる標準化された治療で対応することが求められます.本特集においては,common problemである“せん妄”と“不眠”に関して,治療目標の設定および効果判定の方法,代表的な薬剤の使用法について概説していただきました.

また,精神科医のなかでも議論がある薬剤にベンゾジアゼピン系薬剤があります.日本ではベンゾジアゼピン系薬剤の依存性に対する医師の抵抗感が低かったこともあり,以前は長期連用している患者が少なくありませんでした.しかし,近年では依存性以外にも認知機能低下のリスク,骨折リスクなどが指摘されていることから,処方頻度は減ってきています.また,せん妄悪化のリスクも指摘されていることから,精神科研修のなかでは“基本的に使用しない方がよい薬剤である”,と指導されることが多いと思います.一方で,ベンゾジアゼピンは今でも必ず使用される臨床場面が存在していることから,正しい理解が求められます.本特集では,ベンゾジアゼピン系薬剤の適切な使用方法に関しても概説していただきました.

そして,研修医の皆さんが向精神薬に関して困る場面は,自分で処方しなくてはいけない場面以外にもたくさんあります.緩和領域で用いられる向精神薬,救急外来での向精神薬の過量服薬,向精神薬による悪性症候群やセロトニン症候群が疑われるケース,認知機能低下や低ナトリウム血症など向精神薬の副作用が疑われるケース,向精神薬を内服しているけれど禁食で内服ができない場合などなど.どうしたらいいのかわからないけれど,精神科医にはすぐにコンサルトできない….情報を集めようと思ってかかりつけの精神科に紹介状をもらったけれど,長い病歴が書かれているだけで入院中に何に気をつけたらいいかわからない….内科,外科,救急科など,いろいろな科で向精神薬と関連した問題に対応することが求められますが,よくわからないまま対応せざるをえない状況も多いのではないでしょうか.薬剤の使用法だけでなく調整方法や注意点もわからないまま対応せざるをえない状況は,きっと大きなストレスになるのではないかと思います.本特集では精神科の薬の使用法だけでなく,こういった現場の困りごとに焦点をあててそれぞれの場面での考え方と対応をわかりやすく概説しました.この特集により研修医の皆さんのモヤモヤや不安が少しでも解消され,向精神薬を飲んでいる患者さんに対応しやすくなるきっかけとなれば幸いです.

著者プロフィール

石田琢人(Takuto Ishida)
東京都立松沢病院 内科
精神科,内科,救急科と専門を変えて現在に至ります.精神科医療と内科医療の橋渡しをすべく,臨床教育に注力しています.精神科に興味がある人向けの総合診療プログラム,精神科医のためのリスキリングプログラムを立ち上げていますのでご興味のある方はぜひご連絡ください.

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  • 石田 琢人 /編
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