特集にあたって 特集にあたって 前田重信 腹痛に苦手意識がある原因はなんでしょうか?…やはり関連する臓器が多いことでしょうか? 胸部は心臓大血管・肺・食道がありますが,腹部は胃・十二指腸・肝臓・胆嚢,副腎・子宮…と多臓器におよびます. 循環器科になりたい研修医に理由を聞くと「心臓がわかりやすいから」と返答されました.確かに1つの臓器に注目するように感じやすいですし,胸部は腹部に比べると臓器の種類が少ないようです. では生命を脅かす疾患のうち胸痛を伴うものとしては何があるでしょうか? 急性心筋梗塞,急性大動脈解離(特にStanford A型),肺動脈血栓塞栓症などがあります. 一方,腹痛ではどんな疾患があるでしょうか? 超急性期疾患として急性心筋梗塞,急性大動脈解離(特にStanford A型,心嚢液を伴う),肺動脈血栓塞栓症,腹部大動脈破裂などがあります.いずれも「血管が詰まる・破れる」などの循環にかかわる疾患であります.そのほか急性期疾患として,「血管が詰まる・破れる」以外にも「腸管が詰まる・破れる」ような疾患(上腸間膜動脈血栓閉塞症のような急性腸管虚血),汎発性腹膜炎(下部消化管穿孔の方が上部に比べ敗血症性ショックに至るスピードが早い),重症急性胆管炎や重症急性膵炎,異所性妊娠破裂などがあります. つまり超急性期疾患・急性期疾患は「血管が詰まる・破れる」,「腸管が詰まる・破れる」(捻れる)疾患と胆膵系疾患,女性では異所性妊娠破裂を念頭に置く必要があります. このように腹痛診療の際には,まず腹痛の質に着目し,生命を脅かす病態・疾患を鑑別することが重要です. 次に腹痛患者の全体から見た腹痛の量(原因疾患の頻度)から考えると,頻度の高い上位4疾患を考慮することが重要です.それは近年の国内での報告では83.4%が1週間以内に診断可能であり,残り16.6%は診断がつかなかったと報告されております1).頻度の高い上位4疾患には急性虫垂炎,胆石胆嚢炎等,尿管結石,腸閉塞があります2). つまり腹痛を診療する際は直ちに生命を脅かす疾患を除外したうえで(腹痛の質),上位4つの疾患をまず念頭に置きながら行う(腹痛の量)と考えるとすっきりしませんか? 次に,腹痛の部位について考えてみましょう.その際に重要となるのが神経解剖です.各臓器の神経支配を意識すると,自ずとどの部位の臓器に由来する痛みか想像できるでしょう.腹腔神経叢由来なのか,骨盤内臓神経叢支配なのかといった視点です. 例えば急性虫垂炎の場合,初期は上腸間膜動脈神経叢の神経支配であり上腹部痛になるでしょう.腸管そのものは痛みを感じないため,虫垂炎が進行し腹膜に炎症が波及すれば虫垂の存在位置である右下腹部痛になるわけです. このように医学部初期に勉強した神経支配や血管支配を思い出すと異常の生じている部位がわかります.婦人科疾患はどこの神経支配かわかりますね?その通り,骨盤内臓神経などです.だから恥骨上,下腹部痛になるわけですね. この特集では「急性腹症診療ガイドライン2025」の解説を交えながら,「救急で迷わず判断できる!」をめざし,苦手意識がなくなるよう診断,初期対応,疼痛管理を中心に解説いたします.特に画像検査でも苦手意識がなくなるように,CT,エコー検査についてもエキスパートの先生方から解説していただきます.また画像検査も含めどのような腹痛が見逃されやすいかのピットフォールもお示しいたします. 今後の日常診療で腹痛が得意になることを祈願いたします. 引用文献 1) Tago M, et al:Developing a Clear and New Definition of Non-specific Abdominal Pain for the Identification of Rare Diseases. Cureus, 17:e96263, 2025(PMID:41362537) 2) 第IV章 急性腹症の疫学 BQ4 急性腹症で頻度が高い疾患は.「急性腹症診療ガイドライン2025 第2版」(急性腹症診療ガイドライン2025改訂出版委員会/編),pp34-36,医学書院,2025 Profile前田重信(Shigenobu Maeda)福井県立病院 救命救急センターMédecins Chef Urgentiste Service des Urgences Hôpital Prefectoral de Fukuiもともと消化器外科医であったこともあり急性腹症とは特に2012年ごろよりかかわっており,2015年のガイドライン作成委員から2025年ガイドライン改訂委員と,次の改訂に向けて続いております.緊急被ばく医療には2004年の関西電力美浜発電所3号機事故対応11人の犠牲者(5人の死亡)がもとになり,アメリカでの研修,さらにフランス国防省病院への留学を経て,東日本大震災福島2号機事故への対応から現在も原子力災害医療にかかわっております.趣味はパリ散策食べ歩きですが円安の今なかなか行けていません.
特集にあたって 前田重信 腹痛に苦手意識がある原因はなんでしょうか?…やはり関連する臓器が多いことでしょうか? 胸部は心臓大血管・肺・食道がありますが,腹部は胃・十二指腸・肝臓・胆嚢,副腎・子宮…と多臓器におよびます. 循環器科になりたい研修医に理由を聞くと「心臓がわかりやすいから」と返答されました.確かに1つの臓器に注目するように感じやすいですし,胸部は腹部に比べると臓器の種類が少ないようです. では生命を脅かす疾患のうち胸痛を伴うものとしては何があるでしょうか? 急性心筋梗塞,急性大動脈解離(特にStanford A型),肺動脈血栓塞栓症などがあります. 一方,腹痛ではどんな疾患があるでしょうか? 超急性期疾患として急性心筋梗塞,急性大動脈解離(特にStanford A型,心嚢液を伴う),肺動脈血栓塞栓症,腹部大動脈破裂などがあります.いずれも「血管が詰まる・破れる」などの循環にかかわる疾患であります.そのほか急性期疾患として,「血管が詰まる・破れる」以外にも「腸管が詰まる・破れる」ような疾患(上腸間膜動脈血栓閉塞症のような急性腸管虚血),汎発性腹膜炎(下部消化管穿孔の方が上部に比べ敗血症性ショックに至るスピードが早い),重症急性胆管炎や重症急性膵炎,異所性妊娠破裂などがあります. つまり超急性期疾患・急性期疾患は「血管が詰まる・破れる」,「腸管が詰まる・破れる」(捻れる)疾患と胆膵系疾患,女性では異所性妊娠破裂を念頭に置く必要があります. このように腹痛診療の際には,まず腹痛の質に着目し,生命を脅かす病態・疾患を鑑別することが重要です. 次に腹痛患者の全体から見た腹痛の量(原因疾患の頻度)から考えると,頻度の高い上位4疾患を考慮することが重要です.それは近年の国内での報告では83.4%が1週間以内に診断可能であり,残り16.6%は診断がつかなかったと報告されております1).頻度の高い上位4疾患には急性虫垂炎,胆石胆嚢炎等,尿管結石,腸閉塞があります2). つまり腹痛を診療する際は直ちに生命を脅かす疾患を除外したうえで(腹痛の質),上位4つの疾患をまず念頭に置きながら行う(腹痛の量)と考えるとすっきりしませんか? 次に,腹痛の部位について考えてみましょう.その際に重要となるのが神経解剖です.各臓器の神経支配を意識すると,自ずとどの部位の臓器に由来する痛みか想像できるでしょう.腹腔神経叢由来なのか,骨盤内臓神経叢支配なのかといった視点です. 例えば急性虫垂炎の場合,初期は上腸間膜動脈神経叢の神経支配であり上腹部痛になるでしょう.腸管そのものは痛みを感じないため,虫垂炎が進行し腹膜に炎症が波及すれば虫垂の存在位置である右下腹部痛になるわけです. このように医学部初期に勉強した神経支配や血管支配を思い出すと異常の生じている部位がわかります.婦人科疾患はどこの神経支配かわかりますね?その通り,骨盤内臓神経などです.だから恥骨上,下腹部痛になるわけですね. この特集では「急性腹症診療ガイドライン2025」の解説を交えながら,「救急で迷わず判断できる!」をめざし,苦手意識がなくなるよう診断,初期対応,疼痛管理を中心に解説いたします.特に画像検査でも苦手意識がなくなるように,CT,エコー検査についてもエキスパートの先生方から解説していただきます.また画像検査も含めどのような腹痛が見逃されやすいかのピットフォールもお示しいたします. 今後の日常診療で腹痛が得意になることを祈願いたします. 引用文献 1) Tago M, et al:Developing a Clear and New Definition of Non-specific Abdominal Pain for the Identification of Rare Diseases. Cureus, 17:e96263, 2025(PMID:41362537) 2) 第IV章 急性腹症の疫学 BQ4 急性腹症で頻度が高い疾患は.「急性腹症診療ガイドライン2025 第2版」(急性腹症診療ガイドライン2025改訂出版委員会/編),pp34-36,医学書院,2025 Profile前田重信(Shigenobu Maeda)福井県立病院 救命救急センターMédecins Chef Urgentiste Service des Urgences Hôpital Prefectoral de Fukuiもともと消化器外科医であったこともあり急性腹症とは特に2012年ごろよりかかわっており,2015年のガイドライン作成委員から2025年ガイドライン改訂委員と,次の改訂に向けて続いております.緊急被ばく医療には2004年の関西電力美浜発電所3号機事故対応11人の犠牲者(5人の死亡)がもとになり,アメリカでの研修,さらにフランス国防省病院への留学を経て,東日本大震災福島2号機事故への対応から現在も原子力災害医療にかかわっております.趣味はパリ散策食べ歩きですが円安の今なかなか行けていません.