2018年2月号掲載・2025年9月17日公開
身体診察の重要性は誰もが理解していると思いますが,そうは言っても常に意識しておかなければ疎かにしてしまうものです.診断ミスの60%は不適切な身体診察から生まれるとされます1).
80歳男性が胸痛を主訴に救急外来を受診したとしましょう.胸痛というkeywordから5 killer chest painとして有名な心筋梗塞,大動脈解離,肺血栓塞栓症,緊張性気胸,食道破裂を念頭におき対応すると思います.特に心筋梗塞は出会う頻度も高くまず考慮すべきで,心電図は必須です.また,最近はポータブルエコーも普及しているため心エコーで壁運動やフラップ・心嚢液の貯留の有無などを確認している研修医の先生もいるでしょう.
では,背部の観察はしているでしょうか? 何が言いたいかわかりますか? 胸痛というkeywordから上記の疾患はまず考えるとは思いますが,高齢者の胸痛の原因として帯状疱疹は頻度が高く,救急外来でもしばしば出会います.心電図をとることは重要ですが,帯状疱疹に矛盾のない皮疹を見逃さず確認することも忘れずに行っていただきたいのです.
帯状疱疹は痛みや皮疹以外にも,便秘や尿閉,四肢の運動障害を主訴に来院することもあります.頻度の高い疾患は非典型的な症状も頭に入れておくとよいでしょう(common is common!)2).
冬は寒いがゆえに,患者さんはこれでもかというくらい厚着をして来院されることもあります.高齢者では特にそうでしょう.しかし,診察するときにはきちんと患部を直視し確認することを常に意識しましょう.
引用文献
1) Verghese A, et al:Inadequacies of Physical Examination as a Cause of Medical Errors and Adverse Events:A Collection of Vignettes. Am J Med, 128:1322-1324.e3, 2015
2) 「あたりまえのことをあたりまえに 救急外来 診療の原則集」(坂本 壮/著),pp300-303,シーニュ,2017