春の研修医応援企画ドリル祭り2020

ペニシリン系・セフェム系抗菌薬に関する問題

60歳男性.高血圧症に対して内服加療中.2日前からの嘔気嘔吐,38°Cの発熱を主訴に受診した.意識清明で重篤感はない.血圧140/60mmHg,脈拍100回/分,呼吸数18回/分.眼球結膜に黄染あり,肝胆道系酵素が上昇しており(総ビリルビン3mg/dL),腎機能障害や凝固障害の合併はなかった.造影CT検査では総胆管の拡張および総胆管結石を認めた.急性胆管炎の診断で,緊急で内視鏡下の胆道ドレナージを行うと同時に抗菌薬投与を開始する方針となった.

(※自施設での大腸菌へのアンピシリン・スルバクタムの感受性率は90%であった)

empiric therapyとして開始するのに不適当な抗菌薬はどれか?
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解答

ⓓバンコマイシン

■ 市中発症の急性胆管炎

1)急性胆管炎のマネジメント

急性胆管炎に対する治療は,患者背景および重症度を意識した方針決定が重要であり,Tokyo Guidelines 2018(TG18)1)を参考にすることができます.問題の症例は,免疫不全と関連する基礎疾患や医療曝露歴のない,市中発症の軽症(Grade1)の急性胆管炎と判断されます.血液培養採取のうえで適切な抗菌薬投与と迅速なドレナージを検討することが重要となります.

2)胆道感染症のempiric therapy

市中発症の急性胆管炎・胆嚢炎での原因微生物としては,まずは大腸菌(E. coli)やクレブシエラ属(Klebsiella spp.)を代表とする腸内細菌,および嫌気性菌(バクテロイデスなど)を意識します.なお,市中発症でも重症の場合や,免疫不全と関連する基礎疾患がある場合,医療関連感染の場合には,前述のSPACEとともに腸球菌(特にE. faecium)を意識した抗菌薬を考慮します(抗緑膿菌作用薬+バンコマイシンなど).

問題の症例では,セフメタゾール,セフトリアキソン+メトロニダゾール,アンピシリン・スルバクタムはいずれも一般的には市中発症で問題となる前述の微生物をカバーできる選択肢となります. ただし,これらの抗菌薬でも腸内細菌に対する感受性が低くなっているものはないか,自施設のアンチバイオグラムを確認しておくことは重要であり,過去の細菌検査分離歴があればそれも参考とします(TG18では施設での感受性率が80%を下回る場合には,empiric therapyとしてのアンピシリン・スルバクタムの投与は推奨されていません). さらに,ドレナージが十分にできたかの評価,抗菌薬開始後の臨床経過の推移を追うこともきわめて重要であり,状況に応じてempiric therapyに用いる抗菌薬の変更を行うこともあります.

引用文献

(2020/3/10公開)

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