春の研修医応援企画ドリル祭り2020

症例:嘔気を訴える若年女性2

それでは,この方の血液ガス検査結果を提示します.

症例のつづき:血液ガス検査 pH 7.295,PaCO2 12.7 Torr,PaO2 118 Torr,HCO3 6.0 mEq/L,BE −19.1 mEq/L.
Lac 3.0 mmol/L,Na 152 mEq/L,K 5.8 mEq/L,Cl 120 mEq/L,Glu 840 mg/dL,Hb 14.7 g/dL.
問題2:この患者さんで最も疑われる病態は次のうちどれか?
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解答

ⓒ 糖尿病性ケトアシドーシス

● 問題2の解説:血液ガス検査からわかること

PaCO2が低下しているにもかかわらず,pHは低下しており,呼吸で代償しきれないアシドーシスがあります.乳酸はそれほどたまっておらず,ほかの不揮発酸の貯留が考えられます.血糖値も高いので,DKAが疑われます.

❶ DKAの病態生理

糖尿病性ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis:DKA)は,糖尿病の急性代謝性合併症で,高血糖,高ケトン血症,代謝性アシドーシスを特徴とする病態です.高血糖からの浸透圧利尿により脱水となり,体液と電解質が減少します.DKAは1型糖尿病患者に多く,DKAが糖尿病の初発症状となることもあります1)

DKAは,血中インスリン濃度が体の基礎代謝必要量に満たなくなると発症します.インスリンが欠乏すると,ブドウ糖が細胞内に取り込めなくなるので,代わりにトリグリセリドやアミノ酸を代謝してエネルギーを得るようになります.またグルカゴンが過剰となり,糖新生を刺激します.さらに過剰なグルカゴンは,ミトコンドリアで遊離脂肪酸からケトン体を生成する反応も促します.インスリンはケトン産生を抑制しますが,インスリン欠乏状態ではケトン体がどんどん生成されます.ここで産生される主要なケト酸であるアセト酢酸とβヒドロキシ酪酸が,代謝性アシドーシスを引き起こすことになるのです.

インスリン欠乏には,未治療の1型糖尿病のほか,インスリン投与の中断,怠薬などによる絶対的な欠乏と,生理的なストレスからインスリンの代謝必要量が増加する相対的な欠乏があります.DKAの誘因として,感染症,心筋梗塞,脳卒中,膵炎,外傷などが知られています.筆者は敗血症性ショックを合併していることも幾度となく経験しました.DKAを見たら,その誘因もかならず1回は検討してください.今回の症例は,1型糖尿病の初発症例でした.

❷ DKAの治療は?

DKAの治療は,血管内容量の担保,高血糖とアシドーシスの補正,低カリウム血症の予防が主軸になります.ショックでの治療に準じて,15〜20 mL/kg/時程度の大量輸液を初期に行いつつ,レギュラーインスリンで血糖を下げます.血管内水分がないと,ブドウ糖が細胞内に取り込まれませんので,輸液は重要です.生理食塩水の輸液を開始し,ある程度循環動態が安定したら,血清ナトリウム濃度をみながら,半生食(0.45%NaCl)の使用も考慮します.血糖値が200 mg/dL以下まで下がってきたら,ブドウ糖を投与しつつインスリン投与することを検討しなくてはなりません.インスリンの持続静注はケトン陰性となるまで続けます.この際,カリウム値はpHの変動で低下するのと,ブドウ糖といっしょに細胞内に取り込まれるのとでさらに低下します.血糖値が落ち着くまでは,カリウム濃度も1時間ごとに測定するのが望ましいです.何科で管理することになるかというのは施設によって異なるかもしれませんが,集中治療室か,それに準じたところで管理する必要があります.

引用文献

  • Kitabchi AE, et al:Hyperglycemic crises in adult patients with diabetes. Diabetes Care, 32:1335-1343,2009(PMID:19564476)

(2020/4/9公開)

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