春の研修医応援企画ドリル祭り2020

抗菌薬の要否の判断に関する問題

基礎疾患のない80歳女性.3日前から腰椎圧迫骨折で入院している.入院時から尿道カテーテル留置中であり,本日尿検査を施行したところ尿白血球(2+),亜硝酸塩(+)であった.体温36.5℃,血圧124/68 mmHg,心拍数72回/分,呼吸数16回/分であり,CVA叩打痛は陰性であった.全身状態は普段と著変なく落ち着いている.

どのように対応すればよいだろうか?
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解答

ⓓ無症候性細菌尿と判断して経過観察とする

■ 無症候性細菌尿に抗菌薬は必要?

1)無症候性細菌尿の診断

無症候性細菌尿は,明らかな尿路感染を示唆する所見がないにもかかわらず,女性なら尿培養で2回続けて同一菌が105 CFU/mL以上,男性なら1回でも105 CFU/mL以上の菌が検出される状態と定義されます1).無症候性細菌尿は女性,高齢者,妊婦に多く,糖尿病があるとさらにリスクが高くなります.通常の尿路感染症と無症候性細菌尿の違いは,尿路感染を示唆する症状の「有無」ですが,発熱・背部痛・腰痛・頻尿・排尿時痛・CVA叩打痛といった症状は,尿路感染症以外でも生じるので注意が必要です.

2)無症候性細菌尿の治療

無症候性細菌尿に対する抗菌薬治療の有効性は示されておらず,基本的には培養検査や治療は行いません.例外としては,① 妊婦,② 泌尿器科関連の術前予防,③ 小児(先天性奇形に関連するもの)に対する治療を推奨する文献があります2)

❶ 妊婦の無症候性細菌尿

妊婦の2~10%に無症候性細菌尿が認められ,腎盂腎炎を発症するリスクは非妊娠女性の20~30 倍高く,抗菌薬投与によりそのリスクを21%から4.8%に減らすことができるといわれています3).そのため,妊婦は妊娠早期に最低1回はスクリーニングを受け,尿培養陽性の場合は治療を受けるべきです.抗菌薬の選択に関しては,まず妊婦に対しては胎児への影響を考慮してβラクタム系薬を選択し,治療期間は3~7 日間です4).胎児への安全性という観点からはST 合剤(妊娠後期),キノロン系薬,アミノグリコシド系薬は避けます.

❷ 泌尿器科関連の術前予防

泌尿器科処置で粘膜出血を伴う手技は菌血症や敗血症と高率に関連していて,経尿道的前立腺切除の場合,予防抗菌薬投与により術後の細菌尿が26%から9.1%へ,敗血症が4.4%から0.7%へ減少したといわれています5).そのため,経尿道的前立腺切除やその他の粘膜からの出血が予測される泌尿器科的処置の前には細菌尿のスクリーニングと治療を行います.

泌尿器科関連の術前予防としては,βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系や第1・2世代セファロスポリン系抗菌薬の24時間以内単回投与が推奨されていますが6),低リスク症例においてはキノロン系薬またはST合剤の経口単回投与も選択肢の1つとされています.アレルギーなどでβラクタム系薬が使用できない場合はアミノグリコシド系薬を投与します7)

引用文献

  • Nicolle LE, et al:Infectious Diseases Society of America guidelines for the diagnosis and treatment of asymptomatic bacteriuria in adults. Clin Infect Dis, 40:643-654, 2005
  • Hoberman A, et al:Antimicrobial prophylaxis for children with vesicoureteral reflux. N Engl J Med, 370:2367-2376, 2014
  • Smaill FM & Vazquez JC:Antibiotics for asymptomatic bacteriuria in pregnancy. Cochrane Database Syst Rev, 8:CD000490, 2015
  • JAID/JSC 感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会 尿路感染症・男性性器感染症ワーキンググループ:JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015 ―尿路感染症・男性性器感染症―.日本化学療法学会雑誌,64:1-30,2016
  • Berry A & Barratt A:Prophylactic antibiotic use in transurethral prostatic resection:a meta-analysis. J Urol, 167:571-577, 2002
  • Togo Y, et al:Antimicrobial prophylaxis to prevent perioperative infection in urological surgery:a multicenter study. J Infect Chemother, 19:1093-1101, 2013
  • 「泌尿器科領域における周術期感染予防ガイドライン2015」(日本泌尿器科学会/編),メディカルレビュー社,2015

(2020/3/16公開)

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