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主に腹部大動脈壁に炎症細胞の浸潤と著明な線維化を認める原因不明の疾患で,感染性大動脈瘤をはじめとする原因の判明している炎症を伴った大動脈瘤とは疾患概念が異なる.1972年にWalkerらが肉眼的に瘤壁の著明な肥厚と周囲組織との癒着を特徴とし,組織学的に瘤壁に高度の慢性炎症性変化の認められたものを外科的疾患の1つとして記載した.腹部大動脈瘤全体の約3~10%に認められる.病理学的には後腹膜線維症の亜型とも考えられ,大動脈周囲に限局した後腹膜線維症とする見解もある.
病因:動脈硬化に対する自己免疫反応や各種サイトカインの関与が推測されているが不明である. 近年,炎症性腹部大動脈瘤のなかにIgG4免疫染色陽性例が存在していることが判明し,IgG4関連疾患の観点から疾患概念の再構築が行われている(レジデントノート2011年10月号 実践! 画像診断Q&A『Case1「近頃注目されている疾患です」(p.1503)』を参照されたい).
症状:発熱,腹痛,背部痛をきたすことが多いが,程度はさまざまである.
検査所見:血液検査上,炎症反応上昇を認めることが多い.
CTでは, 大動脈瘤は,造影される内腔(図C★),造影されない血栓層あるいは肥厚した内膜(図C★★),内腔にやや遅れて造影される肥厚した瘤壁(図C→)の3層構造を示し,造影される肥厚した瘤壁は“mantle sign”と表現される(図C→).このmantle signを出血と見誤ると切迫破裂と誤診することとなる.また,感染性大動脈瘤の急性期において炎症に伴う壁の肥厚や浮腫がmantle sign様に見え,炎症性大動脈瘤との鑑別が困難な場合がある.
治療:基本的には通常の大動脈瘤と同様に人工血管置換術を行う.炎症による周囲臓器との癒着のために剥離には慎重を有する.高度炎症がある場合は術前にステロイド投与を推奨する報告もある.
本症例は,待機的に腹部大動脈人工血管置換術が施行された.肥厚した瘤壁に形質細胞優位の炎症細胞浸潤が認められ,炎症性大動脈瘤の病理診断が得られた.
炎症性大動脈瘤と感染性大動脈瘤はともに炎症所見があり,臨床症状は似通っているが,全く異なる疾患概念なので混同しないようにする. CT上は切迫破裂との鑑別もときに問題となる.mantle signが診断の鍵である. 肥厚した瘤壁の遅延造影効果を確認できれば切迫破裂は除外してよいが,炎症性大動脈瘤と感染性動脈瘤との鑑別は困難であることも少なくない. 成因について,近年,IgG4関連疾患の観点から疾患概念の再構築が行われている.
〔 2007年度当院放射線科研修医 田中基嗣 先生作成によるティーチングファイルを改変〕