画像診断Q&A

レジデントノート 2011年12月号掲載
【解答・解説】急性腹症のなかでMRI拡散強調像が診断に有用な疾患です

Answer

卵管留膿腫(pyosalpinx)

  • A1:子宮背側に濃染する隔壁を有する多房性嚢胞性腫瘤を認める(図1).冠状断で嚢胞性腫瘤は子宮と連続する屈曲蛇行した管腔構造として同定可能である(図2).拡張した右卵管と考えられる.子宮体部左側壁に径7cmの変性を伴った筋腫がある(図1).
  • A2:拡張した右卵管内の液体はT2強調像でやや高信号である(図3).拡散強調像で著明な高信号(図4)を呈し拡散が強く低下していることが示唆される.膿汁の所見で臨床症状と画像所見から卵管留膿腫と診断した.

解説

図1 造影CT
図2 造影CT冠状断再構成像
図3 MRI T2強調像
図4 MRI 拡散強調像

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正常卵管は約10 cmの長さをもつ管腔臓器で,膨大部においては約6~8mm大の内径を有するが蛇行しながら走行することもあり,通常CT,MRIでは同定できない.上行感染を契機に,卵管腔・卵管采周囲・周囲臓器の癒着や閉塞が生じた場合は,卵管采(腹腔口)が癒着・閉塞するためその内腔に浸出物が貯留し,卵管留水腫や留膿腫となる.生殖年齢に多く,急性期は発熱,下腹部痛,白血球増加などの炎症症状を示す.女性の急性腹症の鑑別疾患にあげられる疾患である.

以前は確定診断のためには腹腔鏡検査を行うことが必要であったが,近年は画像診断の有用性が提唱されている.画像診断で「壁の厚い連続する屈曲した管腔構造が子宮角へと連続すること」が確認できれば卵管留膿腫と診断可能である. 注意すべき点はCT軸断像のみでは一見多房性嚢胞性腫瘤様にみえることである.隔壁の連続性や位置,付着部位等に着目し管状構造物の重畳した形態と把握できれば診断は可能である. CT再構成画像やMRIは,死角のない多方向からの観察が可能で,病変の3次元的な形態の評価に有用である(図2).

また, 拡散強調像で膿汁が著明な高信号を示す点はMRIならではの有用な所見であり,臨床症状を加味すれば膿瘍と診断可能であることが少なくない図4).拡散強調像高信号の機序は,膿汁の高い粘稠度ないしはタンパク成分がプロトンの動きを制限するためとされている.新鮮梗塞や腫瘍以外に拡散強調像高信号を呈する病態として膿瘍を覚えておくとよい.参考症例として脳膿瘍の拡散強調像を呈示する(図5).拡散MRIについて,興味のある方は成書を参照されたい1)

本症例は抗菌薬治療後,単純子宮全摘術+右付属器摘出術+左卵管切除術(左卵巣温存)を施行された.子宮筋腫と膿汁の貯留した拡張した右卵管を認めた.骨盤内は強い炎症性癒着を呈していた.卵管膿汁の培養で細菌は検出されなかった.

図5 参考症例:脳膿瘍 26歳,男性.先天性心疾患による肺高血圧症の既往がある./A)MRI T2 強調像,B)MRI 拡散強調像.

<症例のポイント>

骨盤内感染症は女性の急性腹症の鑑別として重要です.今回呈示した卵管留膿症はそのなかでもCT, MRIなどの画像診断により特異的診断が可能な数少ない疾患の1つです. 一見多房性嚢胞性腫瘤様にみえますが,前後のスライスを観察し,再構成画像やMRIで嚢胞と隔壁の関係や位置,付着部位等に着目し管腔構造物の重畳した形態と把握できれば診断可能です

〔2008年度当院放射線科研修医 片野坂 舞 先生作成によるティーチングファイルを改変しました〕

参考文献

  1. 「新版 これでわかる拡散MRI」(青木茂樹,阿部 修,増谷佳孝/編著),秀潤社,2005

プロフィール

松岡 陽治郎(Yohjiro Matsuoka)
国立病院機構長崎医療センター放射線科
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