画像診断Q&A

レジデントノート 2012年6月号掲載
【解答・解説】細いが,閉塞により多彩で重篤な症状を引き起こしうる,知悉すべき重要な動脈です

Answer

左前脈絡叢動脈領域梗塞

  • A1:左内包後脚にFLAIR,拡散強調像で高信号がみられ(図1図2),外側膝状体にも拡散強調像で高信号がみられる(図2).急性期脳梗塞巣と思われる.MRAでは動脈硬化性変化が多発してみられるが,主幹動脈に有意な狭窄や閉塞は指摘できない(図3).
  • A2:罹患部位から推察するに,責任血管は左前脈絡叢動脈 (anterior choroidal artery) と考えられる.

解説

前脈絡叢動脈(anterior choroidal artery:以下AchoA)は内頸動脈の最終分枝として後交通動脈分岐よりも末梢側から起始する.背側に走行し視索の下面で交差した後に,側頭葉鈎部内側面から迂回槽を通り,視床枕後方で側脳室下角に入り脈絡叢に達する(図4).その支配領域は,大脳脚中1/3,扁桃体,鈎,海馬前部,視床下部から視床外側の一部,外側膝状体,内包後脚,淡蒼球内節である.これらのうち,内包後脚はAchoA固有の灌流域であるが,その他の部分は後交通動脈,後大脳動脈,内頸動脈や中大脳動脈からの分枝との間に吻合が存在する.このため,AchoA閉塞の病変分布には多様性がある.

AchoAはレンズ核線条体動脈と同様に,主血管から分枝して深部を灌流する穿通枝に分類されるが,後者に比べAchoAの内径は0.7~2.0 mmと比較的大きく,梗塞の成因はアテローム血栓性のみならず塞栓性の場合も少なくない.

AchoAの閉塞による臨床症状は,内包後脚および大脳脚の皮質脊髄路障害による対側運動麻痺(上肢優位),視床外側の障害による半身感覚鈍麻,外側膝状体および視放線の障害による同名半盲を三主徴(Monakow 症候群と呼ばれる)とし,その他麻痺側の運動失調,不随意運動,健忘,意識障害がみられることがある.対側運動麻痺は最も認められる症状であるが,その他の症状の程度はさまざまである.穿通枝の小梗塞にもかかわらず,多彩な症状をきたしうるのが特徴である.

AchoAはMRAでは通常描出されないが,MRA元画像ではその特徴的な走行を知っていれば同定可能なことが多い.普段からAchoAを追跡同定する習慣をつけておくとよい.また,AchoA閉塞の成因は,親動脈である内頸動脈の動脈硬化性変化による狭窄や閉塞,解離などによるAchoA起始部閉塞のこともあり,これらの所見にも留意すべきである.

図1 頭部MRI FLAIR 図2 頭部MRI拡散強調像 図4 前脈絡叢動脈シェーマ

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<症例のポイント>

前脈絡叢動脈は比較的細いにもかかわらず臨床的に重要な領域を灌流しているため,閉塞によって多彩で重篤な症状をきたしうる.それらは,内包後脚および大脳脚の皮質脊髄路障害による対側運動麻痺(上肢優位),視床外側の障害による半身感覚鈍麻,外側膝状体および視放線の障害による同名半盲などが代表的であるが,その他麻痺側の運動失調,不随意運動,健忘,意識障害がみられることがある.AchoAの走行や支配領域を各自復習しておいてほしい.また,AchoAは内頸動脈-後交通動脈の動脈瘤の手術に際して常に問題となる脳外科医泣かせの血管としても知られている.

〔 2009年度当院放射線科研修医 杉本尊史先生作成ティーチングファイルを改変しました〕

プロフィール

松岡 陽治郎(Yohjiro Matsuoka)
国立病院機構長崎医療センター 放射線科
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