明らかな原因が不明の特発性脊椎硬膜外血腫は脊柱管内急性硬膜外血腫の約半数を占める.出血の正確なメカニズムは不明であるが,脊髄硬膜外静脈叢には解剖学的に弁がなく,腹圧上昇などに引き続き容易に圧上昇が起こり破綻するという機序が有力である.
全脊椎レベルで起こりうるが,下部頸椎から上部胸髄と下部胸椎から上部腰椎のレベルで,硬膜嚢の背方―側方に好発する.臨床症状としては,血腫の存在する脊髄支配領域の急激な疼痛より発症することが多く,続いて神経根あるいは脊髄の圧迫による運動障害,感覚障害が急速に進行するのが特徴である.重症例では発症から手術までの時間が神経学的予後規定因子となっている.
画像所見の特徴は以下の通りである.急性期の脊椎硬膜外血腫はCTにて髄液よりも高吸収を呈する紡錘状・三日月状の硬膜外占拠性病変として描出されるが,見落としやすいので注意が必要である(図1→).MRIはコントラスト分解能に優れ,硬膜外血腫の診断に有用で,症状も加味すれば確定診断が可能である. 背側領域優位に分布する硬膜外血腫が紡錘状もしくは三日月状の硬膜外腔占拠性病変として明瞭に描出され,矢状断像では頭尾側方向へ連続性に進展しているのが認められる(図2,3→).血腫の信号は時期により異なるので発症時期を考慮した読影が必要となる.
予後について,症状が軽度で進行性でない場合は自然経過で改善する症例が多いが,稀に,症状が重篤で進行性の場合,発症12時間以内に手術しなければ神経学的後遺症が生じるといわれており,早期診断が重要であることは言を待たない.
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急激な背部痛と神経症状が認められた場合,本症のほかに,脊椎圧迫骨折,急性大動脈解離,椎骨動脈解離などが鑑別にあげられ,特に,急性大動脈解離の除外目的でCTが最初に撮像される場合が少なくない.脊柱管内はCT読影では見落としやすい部位であるが,本症はその特徴として胸腔内圧が上昇する体位をとった際に発症しやすいとされており,そのような病歴があった場合には本疾患を念頭におき注意深く脊柱管内を観察する必要がある. 急性脊椎硬膜外血腫は症状が進行性の場合は手術に至るまでの時間的制約がある疾患でもあり,最初に撮像されることの多いCTにより正しく診断することは意義がある.
〔 2012年度当院放射線科研修医 真崎弘美先生作成ティーチングファイルを改変しました〕