画像診断Q&A

レジデントノート 2013年3月号掲載
【解答・解説】外傷後に清明期をおいて発症する意識障害をきたす疾患といえば?

Answer

脂肪塞栓症候群

FLAIR(図1), 拡散強調像(図2)においてともに両側基底核や視床,半卵円中心などに点状,斑状の多発する高信号域を認める().拡散強調像の方が病変は明瞭である.半卵円中心のものは傍正中に前後して認められ,前大脳動脈と中大脳動脈の支配境界領域の病変である.受傷後の意識清明期の存在と特徴的な画像所見(支配境界領域に多発する小梗塞巣)から,脂肪塞栓症候群と診断可能である.

解説

脂肪塞栓症候群は大腿骨骨折に代表される長管骨骨折後に12~72時間の潜伏期を経て低酸素血症,中枢神経症状,皮膚点状出血などの臨床症状を示す症候群である. 体循環へと流入した脂肪滴が直接塞栓の原因となるのではなく,二次的に生じる炎症性化学物質や血管作動性アミン,ホルモン変化などが血小板凝集や血管内皮の障害を引き起こし小動脈の閉塞をきたすと説明されているが,いまだ定説はない.この二次的変化に要する時間が骨折から発症までの潜伏期に相当すると理解される.

次に脳における脂肪塞栓症の特徴について述べる.通常の塞栓症では血流の豊富な皮質枝に塞栓を起こすことが多いが,脂肪塞栓では穿通枝領域や主要動脈支配境界領域(分水嶺領域)に多発することが特徴である(図). 通常,CTでは所見は明瞭ではなく,診断にはMRIが有用である.特に拡散強調像では,早期から高信号域として梗塞巣が描出され感度が高い.

適切な対処が行われれば,神経学的後遺症を残すことなく回復し予後は良好とされるが,受傷直後から広範な脂肪塞栓を呈するものや他臓器(特に肺)の障害が強い場合は死の転帰をとる.

図1 意識障害出現時MRI(FLAIR)
図2 意識障害出現時MRI(拡散強調像)

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<症例のポイント>

脳における脂肪塞栓症候群の特徴として以下の2点があげられる.① 骨折後,12~72時間の潜伏期を経て意識障害で発症する.② 病変は穿通枝領域や主要動脈支配境界領域(分水嶺領域)に多発するという特徴的分布を示す.診断にはMRI,特に拡散強調像が有用で,早期より高信号域として梗塞巣が描出される.受傷から中枢神経症状発症までの清明期が明らかな場合は診断に困らないと思われるが,受傷直後から意識障害がある場合はびまん性軸索損傷が鑑別にあがる.脂肪塞栓症候群における病変の特徴的分布やびまん性軸索損傷におけるT2*強調像での多発点状出血の検出などが鑑別の鍵になる.

さて,本コーナーを2年間,計24回にわたり担当してきましたが,私の担当は今回で最終となります.放射線科医が担当するという点にこだわりをもち,たとえ稀でも画像が特異的で,症状や年齢・性別を加味すれば診断に至る疾患・症例を意識して取り上げてきました.この連載を機に,若い先生方が画像診断の醍醐味の一端に触れ,画像診断に興味を抱いてくれたならば,これに勝る喜びはありません.最後にこの記事の元となったティーチングファイルを作成してくれた長崎医療センターの元研修医諸君に感謝します.君たちのおかげで,教えることはすなわち己が学ぶことだと知ることができました.

〔2008年度当院放射線科研修医 土居 満先生作成によるティーチングファイルを改変しました〕

プロフィール

松岡 陽治郎(Yohjiro Matsuoka)
国立病院機構長崎医療センター放射線科
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