本症は静脈洞に血栓が生じる疾患で,脳卒中の0.5~1.0%を占める稀な病態である.原因として腫瘍や炎症,経口避妊薬,妊娠・出産などに伴う凝固能亢進,抗リン脂質抗体症候群やプロテインC/S欠損などの凝固異常がある.その他,手術や外傷に関連して発症することや,副鼻腔炎や中耳炎などの炎症が直接波及して生じることもある.
症状は頭蓋内圧亢進や脳実質障害によるもので,頭痛や片麻痺,痙攣,意識障害,失語などが生じうる.典型的には数日~数週間かけて増悪し,ときに激しい頭痛を伴う.25%には神経学的欠落症状がなく頭痛のみがみられるとされる.
本症はCTやMRIで静脈洞内の血栓を確認することで診断される.単純CTでは閉塞した静脈洞が高吸収を示すが,静脈洞は正常でも高吸収であることや左右差・低形成がみられることがあるため,単純CTだけで診断するのはしばしば困難である.MRIでは血栓をflow void(血流のある部分が無信号に描出されること)の消失として捉えることができるが,flow voidの信号はさまざまな条件によって変化するので解釈には注意が必要である.拡散強調画像で静脈洞に高信号がみられれば閉塞が疑わしいとされる.さらにT1強調画像,T2強調画像,FLAIR画像のいずれにおいても異常信号を認めれば確定的といえる.
確定診断には薄いスライス厚での造影CTが有用である. これらで明確な結論が得られなかったものの,臨床的に本症の疑いが濃厚な患者にはカテーテル脳血管造影が有用な可能性がある.
本症の約半数にはvenous hypertensive encephalopathy (いわゆる“静脈性梗塞”) や出血といった脳実質の所見がみられる (図2→).いわゆる“静脈性梗塞”とは静脈路の閉塞により脳実質の血行障害をきたした状態をさすが,可逆性であり病理学的な梗塞を必ずしも意味しない.皮質下白質を中心に浮腫性変化が広がり,その分布は動脈支配に一致しないのが特徴である.
静脈洞血栓症は疑わなければ診断の難しい疾患だが,ルーチンの頭部MRI検査で病変を拾い上げることが可能な場合があるので,特に若年者の脳卒中では常に念頭におきたい.
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