左上肺野に空洞性陰影があります.鑑別疾患は,肺結核,肺癌….
胸部単純X線写真では,左上肺野に空洞を伴う浸潤影を認める(図1○).空洞内に液体貯溜像や構造物はみられない.胸水貯留は認めない.
肺の空洞性陰影の鑑別診断は多い.感染性疾患では肺化膿症,肺結核を含む肺抗酸菌症,真菌症,放線菌症,ノカルジア症,寄生虫など,非感染性疾患では肺癌,多発血管炎性肉芽腫症 (granulomatosis with polyangiitis:GPA) /Wegener肉芽腫症,サルコイドーシスなどがあげられる.実際には,上記の疾患を網羅的に鑑別するわけではなく,疾患の頻度と重要度から肺癌,肺結核,肺化膿症をまず想起し鑑別を進める.
二次性結核の肺病変は上肺野背側(S1,S2,S1+2,S6)に分布することが多く1),本例の病変部位は肺結核で矛盾しない.また,本例は少なくとも1カ月の経過があるが,肺化膿症でも亜急性の経過をとることもあり否定はできない.一方,本例は非喫煙者,若年女性であることから,肺癌は積極的には考えにくい.以上から,肺結核を1番に,肺化膿症をその次に疑った.診断を進めるため,胸部CTと喀痰の一般培養および抗酸菌塗抹検査,喀痰抗酸菌PCRを実施した.
胸部CTでは複数の空洞を伴う不整形の浸潤影を認め,区域性の病変の広がりを窺わせる明瞭な境界部分(図2A,B▶) と,周囲にすりガラス影を伴う辺縁不明瞭な部分 (図2A,B→) が混在してみられる.
また,主病変を離れた衛星病変(図2C▶) も認められる.これらは,経気道的な病変の広がりを示唆し,肺癌より感染症を考える所見である.さらに辺縁を詳細に観察すると,隣接する小葉に分岐状の異常(図2A,B→) が認められ,これは気道に病変が形成されていることを示唆し,肺化膿症より肺結核に合致する所見と考えられた.なお,気管支透亮像(図2A→) は肺結核ではみることは稀であるが1)滲出期早期ではありうる.本例では空洞形成が最近起こり,結核菌を含む乾酪壊死物を吸引して形成された滲出期の病変部分が主病巣と癒合して形成されたものと推測した.
喀痰の抗酸菌塗抹検査でガフキー5号相当,結核菌PCRが陽性と判明し,本例は肺結核と診断が確定した.
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