気管が右に偏位しており,右傍気管部が肥厚していて無気肺がありそうですが,両方の肺の末梢側に浸潤影もありそうです.関係あるのかないのか…?
図1は救急外来でポータブル撮影された胸部単純写真AP像で,肩甲骨が肺野に重なり評価しにくいが,実臨床の画像として出題した.気管の右への弯曲と右肺門挙上を認め,右傍気管部の縦隔影が厚くなり,右上肺野に石灰化結節(図1→)を認める.また,右横隔膜が挙上し右肺の容積は左より小さくなっている.これらの変化は陳旧性肺結核によるものと考えられる.さらに大小の斑状の浸潤影が右上中肺野(図1◯)に,索状影が左中肺野に認められた(図1→).陳旧性肺結核を既存にもち,肺炎と気管支喘息を併発したと考えた.
評価のため胸部CTを撮影し,血液培養,抗酸菌培養を含む喀痰培養,重症肺炎のため尿中の肺炎球菌抗原とレジオネラ抗原検査を行った.また,流行期であったことからインフルエンザ抗原迅速検査を追加した.
胸部CTでは,右上葉は石灰化を伴う虚脱無気肺となり拡張した気管支が残存するのみで(図示せず),陳旧性病変と考えられた.両側に気管支に沿って浸潤影が多発性にみられ(図2◯),気管支肺炎像を呈していた.ウイルス性肺炎よりは,細菌性の気管支肺炎を考える所見であった.インフルエンザ抗原迅速検査の結果は陰性,尿中の肺炎球菌抗原とレジオネラ抗原はともに陰性であった.また,喀痰塗抹ではグラム陽性球菌が検出された.
第3病日に血液培養,喀痰培養の両者からMRSA(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が検出され,抗菌薬をパズフロキサシン+パニペネムからバンコマイシン(VCM)に変更したところ第6病日には解熱が得られた.血液培養陽性のMRSA感染症であり,VCM4週間の点滴投与を行い退院となった.なお,喘息の治療経過は順調であった.
本例は日常生活が自立した高齢者の肺炎であり,医療介護関連肺炎には該当せず,市中感染型MRSA(CA-MRSA)肺炎と考えられた.感染経路は不明であるが,妻が介護施設入所中であり,ときどき見舞いに行っていたことから,介護施設での感染が疑われる.米国ではPanton-Valentine leukocidin(PVL)* 陽性のMRSAによる市中肺炎の死亡率が高く問題となったが,本邦ではPVL陽性MRSA市中肺炎は稀であり,かつ,市中感染型MRSA肺炎自体もまだ報告例が少ない1).しかし,今後増加が予想され,また,MRSAは通常の抗菌薬が無効であることから,市中肺炎の起因菌の1つとしてMRSAを念頭におくべきと考え,本例を取り上げた.
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