生来健康な若年女性の市中肺炎であり,咳嗽が強いことから,マイコプラズマ感染症をまず疑う.最近は咽頭拭い液などで蛍光抗体法による迅速抗原検出検査が行われるようになり,本症例は陽性であった.尿中肺炎球菌抗原とレジオネラ抗原は陰性で,喀痰培養も陰性であった.マイコプラズマ迅速抗原検査が陰性の場合には,確定診断のためにはマイコプラズマ粒子凝集法(PA法),補体結合反応(CF法)にてペア血清で4倍以上の抗体価の上昇を確かめることが必要になる.寒冷凝集反応の上昇も特徴的である.本症例ではすべての検査で上昇が認められた.また,本症例では発病初期から右頸部痛があり,入院後も耳閉感,難聴が続いた.耳鼻咽喉科では右浸出性中耳炎合併との診断であった.マイコプラズマ肺炎は心筋炎・心外膜炎,中耳炎,鼓膜炎,多形紅斑を伴うことがあることは知られており,(特に)小児では多い.本症例はマイコプラズマ中耳炎を合併していた.
マイコプラズマ感染症ではこのような広範な細気管支炎を合併して,強い咳嗽や喘鳴,呼吸困難,低酸素血症を呈することがある.RSウイルスや百日咳菌なども小児では細気管支炎をきたすとされているが,成人例ではきわめて稀であり,症状の強い急性細気管支炎の成人例ではマイコプラズマ感染症をまず疑う.
胸部CT(図2,3)では気管支壁に沿った浸潤陰影(→)とともに,小葉中心性の粒状陰影(→)を認める.マイコプラズマ細気管支炎の像である.
マイコプラズマ細気管支炎では,十分な抗菌薬とともに十分なステロイド治療を加えることが必要である.本症例では,抗菌薬はアジスロマイシン 500mg/日を連日8日間点滴,その後クラリスロマイシン400mg/日を投与した.また,初日からメチルプレドニゾロン 125mg/日を3日間,その後プレドニゾロン 20mg/日を経口投与として自覚症状,画像ともに改善をみた.マイコプラズマ細気管支炎では予後不良の例が報告されているが,初期のステロイド治療を十分に行うことが重要である.
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