画像診断Q&A

レジデントノート 2016年12月号掲載
【解答・解説】呼吸困難を訴える20歳代女性

ある1年目の研修医の診断

胸部単純X線写真にて左上肺に浸潤影を認める(図1).肺野の全体的な透過性低下を認める.CTではびまん性に肺野にすりガラス影を認める(図2).急性の経過で市中肺炎の可能性があるが,間質性肺炎,その他の疾患も念頭に病歴を聴取する必要がある.薬剤歴や吸入歴などを聴取する.

Answer

防水スプレーによる肺障害

  • A1:胸部単純X線写真では左上肺に浸潤影を認める(図1).肺野の全体的な透過性低下を認める.CT(図2)ではびまん性のすりガラス影を認める.小葉間隔壁の肥厚は認められない.
  • A2:防水スプレーによる肺障害.詳細な喫煙歴の確認や薬剤使用歴,吸入物質の有無を聴取する.

解説

胸部単純X線写真では左上肺に浸潤影を認め,肺野の全体的な透過性低下を認めるため(図1),CTにて同所見を確認する必要がある.CTではびまん性に肺野にすりガラス影を認める(図2).喫煙後というキーワードからは急性好酸球性肺炎も鑑別にあがるが,急性好酸球性肺炎は,はじめて喫煙した場合や,長く禁煙していて久しぶりに喫煙を再開した場合に発症することが多く,本症例の場合別の疾病を考えるべきである.また急性好酸球性肺炎はCT所見で小葉間隔壁の肥厚と,若干の胸水貯留が特徴的であり本症例とは画像所見が異なることからも否定的である.

病歴を詳細に聞き直すと,自宅の比較的狭い玄関にて靴に防水スプレーを噴霧した後に喫煙し,呼吸困難を発症したことが判明した.疾患概念を知っていれば診断は比較的容易で,この病歴から防水スプレーによる肺障害をまず第一に考えたい.びまん性のすりガラス影であることから,一般細菌による肺炎よりは,薬剤性肺炎やニューモシスチス肺炎などの特殊な肺炎も鑑別に入れる必要があると考えるべきである.本症例は,それらの疾患の鑑別目的に翌日気管支鏡,肺胞洗浄と経気管支肺生検を施行した.肺胞洗浄の結果,総細胞数1.9×105/mL,好中球 57.5%,リンパ球10.5%,好酸球 0.5%,マクロファージ 31.5%であり,好酸球性肺炎を示唆する所見はなかった.細胞診からもニューモシスチス肺炎を示唆する所見はなかった.薬剤性肺障害を疑わせる新規薬剤の開始もなく,病歴から防水スプレーによる肺障害の可能性が高いものと考えて無治療で経過観察した.

入院3日目には呼吸困難は改善し,胸部単純X線写真での悪化を認めなかったため,同日退院となった.3カ月目の経過観察のCTでは肺野のすりガラス陰影は消失していた.経気管支肺生検では肺胞壁に軽度のリンパ球・好中球浸潤を認め,肺胞内には出血およびフィブリン析出を認めた.

防水スプレーによる肺障害は比較的遭遇することの多い疾患であり,防水スプレーを換気の悪い室内で使用した際に多く,過去には死亡例も報告されている.防水スプレーはアルコールなどの溶媒,撥水作用のあるフッ素樹脂からなる.両者とも肺への障害が報告されている.本症例も狭い密室での使用が肺障害をきたしたものと考えられた.喫煙の影響は不明である.

図1
図2
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プロフィール

北村淳史(Atsushi Kitamura)
聖路加国際病院 呼吸器内科
山口哲生(Tetsuo Yamaguchi)
新宿海上ビル診療所
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