大動脈壁は内腔側から内膜,中膜,外膜で構成される.大動脈解離は中膜が解離する疾患である.急性大動脈解離は年間10万人あたり3.5〜6人が発症する.医療機関に搬送され手術を受けたとしても致死率が20〜30%といわれており,非常に予後の悪い疾患である1).発症10日以内の死亡リスクが高く,発症後の死亡率は1時間ごとに1〜2%上がるともいわれており,迅速に診断し,治療に結び付ける必要がある.
臨床症状は,① 解離自体の疼痛および ② 続発する破裂,出血,臓器虚血に大別される.疼痛は突然の激しい胸痛,背部痛,腹痛で引き裂かれるような痛みと形容される.解離の進行に伴い痛みが移動することは特徴的である.実際のところ,本症例では “突然の背部痛” や両上肢の血圧左右差を認めていたことから,急性大動脈解離の臨床診断に基づき,はじめから造影CT検査がオーダーされていた.ところが,急性大動脈解離のなかには,無症状のことや非特異的な症状で発症することもある.このような場合,CT検査を行わない,あるいは非造影CTのみが撮影されることもある.
ここでは,非造影CTで急性大動脈解離を診断する方法について解説する.本症例のように高齢者で動脈硬化による内膜の石灰化を伴う場合は,内膜の石灰化が大動脈内腔に認められる.動脈壁の石灰化が乏しい症例においても,大動脈内腔に偏移した内膜(flap)が直接視認できることもある(図1).また偽腔が血栓化した場合には,非造影CTで三日月状の高吸収域として血栓化した偽腔が描出されることもある.原因不明の心タンポナーデが診断の契機となることもある.なお,非造影CTで約90%の急性大動脈解離を指摘しえたと報告されている2).以上の非造影CTの画像所見から大動脈解離と診断できれば,ダイナミック造影CTで解離の範囲や臓器血流を評価し,治療方針決定に結びつける必要がある.胸痛,背部痛,腹痛をきたす疾患は多岐にわたり,原因精査のため非造影CTが日常的に行われているが,大動脈内腔の評価を忘れないことを本症例から学ぶTake Home Messageとしたい.