画像診断Q&A

レジデントノート 2024年4月号掲載
【解答・解説】上腹部痛で外来受診した80歳代男性

ある1年目の研修医の診断

上腹部痛の原因が全くわかりません.大動脈にも異常はなさそうですし,脂肪織の濃度にもあまり異常はなさそうですし.

Answer

肝細胞癌の破裂

  • A1:肝右葉に腫瘤が認められ(図1A),さらにその下面に血腫を疑う高濃度域が認められるが,単純CTではかなりわかりにくい.また骨盤底には高濃度の腹水が認められ,血性腹水を疑う(図1D).
  • A2:肝細胞癌の破裂.

解説

肝細胞癌(hepatocellular Carcinoma:HCC)は原発性悪性肝腫瘍のなかでは最も頻度が高く,B型肝炎ウイルス(HBV)やC型肝炎ウイルス(HCV)感染,肝硬変などがそのリスクファクターとなる.造影CTやMRIでの画像的特徴【早期濃染】というキーワードは,国家試験を経験した読者の記憶にも新しいのではないだろうか.画像所見である早期濃染は動脈血流が多いことを示唆しており,しばしば破裂・動脈性出血をきたし,IVRなどによる止血術が遅れると致死的となりうる病態であるため,迅速な診断が重要である.

本症例は腎機能低下が認められたために,単純CTのみでの評価が求められた.注意深く観察すると肝腫瘤およびその周囲の血性腹水が認められるが,正直なところ提示した画像のみでの読影は容易ではない.しかし骨盤底(直腸前面)には隣接する小腸内腔の腸液や膀胱内の尿と比較して高濃度を呈する腹水が認められ,血性腹水の貯留が疑われる.臨床的にはそれほど重篤感がなかったため,仮にこの血性腹水を見逃してしまうと正しい診断にたどり着くことはできなかっただろう.骨盤底の血性腹水に気づけば,その原因となりうる出血源をくまなく探す,というプロセスに進むことになるため,ここが分岐点となる.血性腹水を見逃さないコツとして,どのような症例であっても必ず骨盤底の腹水の有無を確認すること,さらに膀胱内の尿などと濃度を比較すること,この2点が重要である.本症例は,血性腹水が指摘され,その原因として肝腫瘤が疑われたため病態確認のために造影CTを施行(図2),さらに緊急止血術が行われた.

今回は新年度の4月号ということで,見逃したくない緊急症例を紹介した.主訴の部位とは異なる骨盤底で重要な異常所見に気づき,そこから正しい診断・治療に近づいていく.本コーナーを通じてそのような実践的な擬似体験をしていただき,明日からの研修,診療にぜひとも役立てていただきたい.

図1
図2
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プロフィール

山内哲司(Satoshi Yamauchi)
奈良県立医科大学 放射線診断・IVR 学講座,教育開発センター
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