両側肺門部が腫大しています.肺がんや悪性リンパ腫,リンパ増殖性疾患を考え,血液検査と胸部CTを施行します.
胸部単純X線写真では両側肺門部腫大を認める(図1◯).また右傍気管線が消失しており(図1➡),右上縦隔にも同様の変化があることが読みとれる.胸部単純CT縦隔条件では,肺門部のほか気管分岐部のリンパ節腫大が明らかである(図2➡).肺野条件では右下葉の葉間胸膜の一部肥厚と,近傍に粒状影の集簇を認める(図3◯).血液検査ではsIL-2Rの若干の上昇を認めたが,ACEは基準範囲内であり,腫瘍マーカーも陰性で,有意な所見はなかった.
確定診断のため気管支鏡検査を施行した.気管支肺胞洗浄液では,リンパ球比率は正常であったが,CD 4/8比が3.6と上昇していた.右下葉の粒状影に対し経気管支肺生検を行った結果,非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認め,肺サルコイドーシスと診断した.
サルコイドーシスは原因不明の全身性炎症性疾患であり,病変部位では非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が形成される.40歳以下の成人,特に20歳代に好発するといわれていたが,近年では50~60歳代で診断される例が多くなっている1).発症部位としては肺病変が最も頻度が高いが,そのほか皮膚病変,眼病変も多い.心臓や神経系にも発症しうる.心病変は致死的不整脈をきたすなど,予後規定因子として重要である.症状が軽微であれば無治療経過観察とするが,臓器障害,特に心病変が明らかな場合には全身治療を開始する.
肺病変で最も高頻度にみられるものは,両側肺門縦隔リンパ節腫脹(bilateral hilar-mediastinal lymphadenopathy:BHL)である.肺野で特徴的な画像所見は,リンパ路である広義間質(胸膜,気管支血管束周囲,小葉間隔壁,小葉中心)に沿った多発粒状影・肥厚像である2).線維化が進行すると肺の構造改変をきたすが,近年はあまり報告されていない.血液検査では,全例ではないが,ACE活性や血清リゾチーム値,sIL-2Rの高値を認めることが多い.気管支肺胞洗浄検査ではリンパ球比率の上昇やCD 4/8比3.5以上の上昇が特徴的である.
本症例は肺サルコイドーシスの確定診断後,他臓器病変の検索を行った.その結果,ぶどう膜炎を認め,眼サルコイドーシスの合併と診断した.眼病変に対しては点眼薬による局所治療を開始したが,肺病変はその後に自然消退したため無治療経過観察中である.
肺病変を契機に診断されたサルコイドーシスでは,他臓器病変の有無について積極的に検索することが重要である.しかし,初期の段階では検査で異常を認めない場合が多く,定期的な検査によるフォローアップが必要である.