左頸部から上縦隔に及ぶガスを含む膿瘍を疑います.ガス産生菌が原因でしょうか.
頸部膿瘍の画像診断では,膿瘍の有無や進展範囲の診断に加えて,背景疾患を推定することも重要である.本症例では,幼少期から左頸部痛を反復していた病歴に加え,造影CTで炎症・膿瘍が左梨状窩近傍から甲状腺左葉上極周囲,さらに上縦隔へ連続していた.このような「反復する左側頸部感染」と「梨状窩近傍から甲状腺左葉周囲へ及ぶ病変分布」は,梨状窩瘻を示唆する所見である1).
梨状窩瘻は第3または第4鰓嚢に由来するとされる.左第4鰓弓動脈が大動脈弓の一部を形成するのに対し,右第4鰓弓動脈は右鎖骨下動脈の一部となるという左右非対称性が梨状窩瘻が左側に好発することに関与すると考えられている1,2).模式図を図2に示す.典型的には小児・若年者に多いが,幼少期から軽快と再燃をくり返し,成人後に頸部膿瘍として顕在化することもある.したがって,成人の頸部膿瘍であっても,原因不明の左側頸部感染を反復している場合や,病変が甲状腺左葉上極周囲に及ぶ場合には,梨状窩瘻を鑑別にあげる必要がある2).急性期CTでは瘻管自体が明瞭に描出されないことも多い.そのため,急性期の画像診断で重要なのは,瘻孔を直接証明することよりも,病変分布から梨状窩瘻の可能性を指摘し,炎症軽快後の精査につなげることである.
確定診断には,炎症軽快後の食道造影や喉頭ファイバーが有用である.Ahujaらは,急性化膿性甲状腺炎を呈した小児例において,超音波は急性期病変の評価に有用である一方,瘻孔の証明には食道造影が重要であり,炎症が落ち着いた後に施行すべきことを示している3).本症例でも後日施行された食道造影で,左梨状窩から尾側へ延びる瘻管が描出された(図3).
梨状窩瘻による感染は,抗菌薬治療や切開排膿,ドレナージで一時的に改善しても,瘻孔が残存すれば再発をくり返しうる.根治には瘻孔への対応が必要であり,従来の頸部外切開による瘻管切除に加え,近年は内視鏡下焼灼や化学焼灼など,梨状窩側の内瘻孔を閉鎖する低侵襲治療も報告されている4).したがって,本症例のポイントは,頸部膿瘍の範囲評価のみではなく,左梨状窩近傍から甲状腺左葉上極周囲へ連続する病変分布を手がかりに急性期CTで梨状窩瘻を疑い,根治治療につなげる点にある.