画像診断Q&A

レジデントノート 2026年10月号掲載
【解答・解説】突然の下肢脱力を認めた60歳代男性

ある1年目の研修医の診断

椎間板ヘルニアや圧迫骨折を考えたいエピソードだったのですが,異常がわかりません.年齢的にも悪性腫瘍も鑑別になりますかね.

Answer

急性左総腸骨動脈閉塞症

  • A1:腹部大動脈から総腸骨動脈にかけて強い動脈硬化所見がみられ,蛇行も激しく,一部は解離もあるように見える(図1図2図3).腰椎や椎間板,脊柱管には明らかな異常は認められない.

解説

臨床で初療を担当する際,その患者をみて最初に思い浮かんだ診断が,その後の診療全体を支配することがしばしばある.本症例の60歳代男性は突然の左下肢脱力と腰痛で救急搬送されたものの,全身状態は悪くなく,椎間板ヘルニア,圧迫骨折など整形外科疾患が疑われ,腰椎MRIが撮影された.ところが,画像では腰椎や椎間板,脊柱管に異常が認められなかった.腰椎MRIは見慣れないし.異常が本当にないのか,自分(担当医)が見つけられていないだけか,なかなか判断がしづらい.しかし目の前の患者は強い症状を訴え続けている.そんな状況を想像してみてほしい.

本例が教えてくれる第一のポイントは,「腰痛を伴う下肢脱力」は必ずしも脳や腰椎疾患だけではない,ということである.突然発症した片側下肢の脱力では,脳卒中や脊髄疾患,神経根障害が鑑別にあがる.しかし,急性下肢虚血も忘れてはならない.血栓などによる動脈閉塞で下肢血流が急速に障害されると,痛みだけでなく,しびれ,筋力低下,歩行困難をきたす.糖尿病などによって痛みを感じにくければ,運動障害が前面に出るため,「腰や神経の病気らしい」と誤認されやすい.だからこそ,基本に立ち返って系統的な身体診察が重要である.本例では,初期診察の段階で,足の冷感,皮膚色,左右の大腿・膝窩・足背などの動脈の拍動を十分に確認できていなかった.腰椎疾患のようにみえても,靴下を脱がせ,左右の足に触れるだけで,診断の方向は大きく変わりうる. 急性下肢虚血の身体所見は,疼痛,蒼白,脈拍消失,感覚異常,運動麻痺,冷感である.すべてがそろうとは限らないが,足をしっかりと診る理由は十分にある.

もう1つのポイントは,MRI画像の読影にある.近年,時間外でもMRIが利用できる施設は増え,救急診療で腰椎MRIが選択される機会も珍しくないが,腰椎や椎間板だけを見るという姿勢は危険である.腰椎MRIには,腹部大動脈,腸骨動脈,腎,骨盤内臓器なども一部写り込む.撮影目的が腰椎であっても,患者の症状を説明しうる異常が視野内にないかを探すことが大切である.特に,脊柱管内に明らかな責任病変がない場合には,画像の辺縁にある異常こそが診断の鍵になることがある.本例もまさに腹部大動脈から総腸骨動脈にかけて異常が映り込んでいた.後で撮影した造影CTでも動脈閉塞と末梢の動脈描出不良が確認できた(図4).

本例は,われわれに対して,診療の基本を再確認させてくれる症例である.症状から鑑別疾患を幅広く考え,系統的な身体診察を行う.そして画像を撮影したら,目的部位だけでなく視野全体を確認する.その何気ない習慣こそが,見逃しを防ぎ,患者の予後を左右する診断につながる.

図1
図2
図3
図4
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プロフィール

山内哲司(Satoshi Yamauchi)
奈良県立医科大学 放射線診断・IVR学講座,教育開発センター
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